ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2017-11-11

IDA@アトランタ報告(その2)

2時間後に,最大のお目当ての報告が始まるので,記憶が上書きされる前に書いておきます・・・

「天才たちは学校がきらいだった」の著者,トーマス・G・ウェスト氏のプレゼンは,日本から行ったかいがある素晴らしいものでした(T T)
IDA入りして初めて,それどころか学会と名がつくもので初めて,ディスレクシアの強みについて語られたプレゼンを聞きました。
それには理由があることも,この発表で明らかに・・・

・題名は「オートンが患者MPから学んだこと」。
オートンとは,ディスレクシアを「字盲」と名付けてはじめて世に問うた人。IDAは前身を「オートン協会(Orton Society)」と言い,またこちらではOrton-Gillingham(オートン・ギリンガム)メソッドが,ディスレクシア向け英語教授法としてスタンダードになっているようです。
この発表の根底にあるメッセージは「オートンは最初からすべてを見抜いていた」。

ウェスト氏は,オートンを「僕の第一のヒーロー」と呼び,こんなエピソードを紹介します:
「オートンは1925年,アイオワ州で142人のドロップアウトを集めて調査を行った。
そのなかでMP(16歳)という,まったく字が読めない少年を見て,当時新しかったビネー式検査(現在のIQテストの元になったもの)を行い,こう述べている:
IQ検査はビジュアル化の能力を正当に評価しない
彼の受け答えはすぐに返ってきたし的確だった』」
「つまり,オートンはIQという概念の限界をすでに見抜いていた。これはしょせん,学校で成功するのは誰かをはかるテストに過ぎない。アメリカでは現在,すべての面で成功するのは誰かをはかるテストだと勘違いされているが」

・「映像思考の人は,言葉や書物という古いテクノロジーの世界では分が悪いが,CGが表現するような新しいテクノロジーにはパーフェクトに適応できる。
これからやってくる複雑な世界に適応できる人種。」

・ウエスト氏の第2のヒーローはNorman Gerchwin。オートンに続いてディスレクシアのポジティブ面に迫った人で,早世がたいへん惜しまれまる方だそうです。
この人によると:
「ディスレクシアとは,脳の遂行機能と関係がある。ここは前頭葉のなかでも最も遅く発達するところで,ここが成長すると整理整頓の苦手もなくなる。そしてギフテッドなほど整理整頓の苦手度も激しい。
ディスレクシアの人は,通常の人より脳細胞の死滅が少なく,左脳と右脳が対称的で,長いつながりが多い。これは無関係なことをつなげる能力となる。
多様性,ランダムさをより多くもち,遅咲き[完成形に至るまでより長期間を要する]。
狩人タイプで,人間集団の進化に必要な存在」

・「ディスレクシアの強みは,小さな%,個人的な話,少数者の力,違いや個性の部分に現れる。このため,主流の"科学研究"(数値化し,より大きな数値のものを一般化していく)ではすくい取れない。
ディスレクシアの強みを記述するには,個人のライフヒストリーをじっくりと聞き,そこからデータを集める必要がある。
These talents are invisible to conventional academic measures.
(ディスレクシアの才能は,従来のアカデミズムの手法ではすくい取れない)
オートンは,ディスレクシア研究のはじめから,そのことを指摘していた。」

・「成功した偉大なディスレクシアにおいてうまくいったことを,あらゆるディスレクシアに活用すべき。ディスレクシアを教える教師や親もその部分をサポートすべき。」

・ウェスト氏自身もディスレクシアだそうで,ファミリーヒストリーを紹介していました。先祖はイギリスのコッツウォルズに暮らすクエーカー教徒で,食料雑貨店を経営する,町の便利屋だったそうです。
「ディスレクシアの血は何世代も,何世紀にもわたってさかのぼることが可能だが,これらが文書になって残っていることは珍しい。イギリスでは英国教会に属していなければ名門大学には入れない時代が長く,クエーカー教徒はアカデミックな世界とはほど遠いところにいた」しかし,それぞれの場所でクリエイティブに生きて来たのです。
祖先がかかわっていたという,飛行機,機械いじり,建築,絵画,発明…などのパワポを見せられました。生徒の関心,そしてうちの父の家系と重なる・・・


こじんまりとして静かで,しかもご本人も「エストニアで開かれていた電子政府の学会からとんぼ返りしてきて時差ボケが」と言っているくらいテンション低めの発表でしたが,ディスレクシアの人らしい,時空がゆがむような感覚を覚える発表でした。
終了後,「私がディスレクシアについて読んだ最初の本はあなたの本でした。You are my hero!!」と言いに行きました(笑)
この人の本は本当に読んでほしいです!!訳したい,でも時間が…


◆もっと実務的な発表もいくつか聞きました。
・ディスレクシアには,「雑だが速い」タイプと,「正確だが遅い」タイプがいる。このうち後者のほうが(アメリカの特別支援で要求されている「介入に成功」の基準に達するまでの)困難度が高い,という趣旨の発表は,「用語の定義が間違っている」「解釈がおかしい」と,フロアにぼこぼこにされていました。
でも私はしみじみと同意するところがありました。「読むのが遅いタイプのディスレクシアにとって,試験という時間制限の壁を突破するのは,やはり本当に大変だ」というメッセージを受け取りました。

・アメリカ人も,ブレンディングやセグメンティングを知らないようです!
教室でブレンディングをする動画を流したら,会場中が「へ~」「ほ~」「そうやるんだ~」という雰囲気になっていました。

なお,会場ではブレンディングやセグメンティングが「音韻認識強化の練習」とされ,「音韻と文字を結び付けること」がフォニックスと呼ばれているようです。
そして,フォニックスはシンセティック・フォニックスとほぼ同義のようです。

フォニックスは過去30年間,政治問題になるほど複雑な歴史があったようで,学校では「フォニックス」という言葉は禁止だった時代があったようです(これは本当に黒歴史らしく,あまり語られません)。その後,本気で識字率が落ちた(地方だと,日常生活をぎりぎり送れる程度以上には読み書きできない人が3割いるところもあるそうです( ゚Д゚)。オーストラリアは4割がそうだとの発言も)ので,政府が方針を転換したようです。
実は「ディスレクシア」という言葉も行政用語としてはどうやら微妙なようで,RD(reading disability:読み障害)と言い換えられているようです。

・「ディスレクシアの子には,シンタックスをきちんと教えるべき」と力説する発表では目が点に。構文を学ぶことが役に立つというか必要だという話です。
結論だけ書くと・・・どうやら,日本の受験英語は全然捨てたものではないです。というよりむしろ,日本の文法重視の英語教育は,英語に触れる機会が極端に限定された環境で最大限に効率的に英語を身に着ける方法としては,ものすごくよくできていると再認識しました。伊藤和夫恐るべし。
日本の英語教育に足りないものがあるとしたら,音韻認識とフォニックス,そして中学英語レベルの基本文が反射的に出てくるようにするための訓練だと思います。前からそう思っていたのですが,そのことを確信するに至りました^^

・ディスレクシア介入方法として,音韻認識の練習,フォニックスに続けて行うべきは,接頭辞や接尾辞を覚えること,そして流暢性(fluency)の獲得だそうです。時間をはかっての音読が必要とのことでした。そうでしょう。
これについては,日本の英語教育でよくみられる「長文問題の内容を覚えていれば解ける定期試験」は非常に有害と再認識しました。2行でも3行でも,覚えずに"読む"訓練の徹底が必要です。

・英語教育の本場?にも,確立したディスレクシア介入法は存在しないようです。
ディスレクシアは多彩すぎて,メソッドを確立することができないようです。
いろんな素材を用意しておいて,生徒にあわせて作るくらいのスタンスが必要らしいです。


3 件のコメント:

  1. あひるのガーコ2017年12月9日 0:05

    読み書き困難なこども達に、ジョリーフォニックスを使って英語学習のサポートをしている者です。

    アトランタ報告が、とても興味深い内容で、夢中で読ませていただいています。
    以前より「中学英語レベルの基本文が反射的に出てくるようにするための訓練」「時間をはかっての音読」が役に立ちそうだと感じていたので、報告を読ませていただき、やっぱりそうなんだと自信をもてました。

    まさに、先週から始めたのですが、高校入門編(中学レベル)の英語ドリルを使って、タイムを計りながら、21個の英文を3回音読をするという学習法です。読み書きが苦手な子たちに、できるのかという不安をよそに、スマホのストップウォッチ片手にみんな夢中になってやっていました。私にとっては、大きな喜びであると共に、かなりの驚きでした。
    中学生レベルの簡単な英文だったのと、肝心なところが黒塗り(海苔弁)になっているのがよかったのだと思います。タイムも全員が上げてきました。

    読んだ後には、海苔弁の部分を書くというのもやってみました。
    1回目はつづりの間違いや、穴埋めの箇所の見間違い、文章の始めが小文字などの間違いが見られましたが、回数を重ねる毎にミスが減り、タイムも上がりました。

    言えるようになる→読めるようになる→書けるようになるの順番でやりやすいように作られているのも、よかったようです。

    教材を追加発注したところで、もじこさんの報告を読ませていただき、勇気をいただきました。子ども達の様子を見ながら、続けてみようと思いますp(^-^)q

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    1. ありがとうございます。ご意見を頂き,私も時間をはかって読んでもらうことをやってみました。デコーダブルブックを30秒でどこまで読めるかと,一定の場所まで何秒で読めるか。確かに生徒は燃えてました(笑)。そしてつっかえながらでも最後まで読み切りました。
      こういう時間との戦いはいいですね!ご教示ありがとうございます。

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    2. あひるのガーコ2017年12月22日 11:22

      お返事をくださり、ありがとうございます。

      以前もじこ先生のセミナーで、B.B.カードを使って文章の書き換えをすると、応用力がつくと教えていただき、私の教室でもやってみたのですが、タイムを計りながらの音読につかっているのも、それに似た文章書き換えのドリル本です。

      元になる文章がI→you→we→they→he→she→Tomに変えて書かれています。

      ひととおり終わると、次の列には、動詞や目的語をちょっとだけ変えた文章が書かれていて、初めはみんな「あれ?あれ?」と迷子になっていました。

      ですが、タイムを縮めたいがために、2回目のレッスン日には、間違いが減り、3回目には、ほとんど間違えなくなりました。毎回新しいページを読むようにしているのにも関わらず…。

      これが多読と言えるかどうかわかりませんが、何かしらの効果を生みそうな予感があります。少なくとも間違えないよう注意して文字を追うようには、なってきているようです。

      気をつける分、いったんスピードは落ちるのですが、1日のレッスンで3回チャレンジするようにしているので、3回目には速く言えるようになり、満足して帰って行きます(笑)

      自分との戦いというのが、よいのでしょうね。人には勝てなくても、自分には勝てる!

      ただ、本当によくできたドリルだと思うのですが、フォニックスに当てはまらない難読語がちょいちょい出てきて、読み書きが苦手な子たちを惑わせます。
      やはり、別の単語を当てはめるなど、ちょっとした工夫が必要ですよね~。

      この先どのような効果があるのか、まだわかりませんが、この冬休みを利用してガッツリ続けてみようと思います。

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