ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2015-03-30

コスモの合格体験記(3)

コスモ君合格体験記の最終回です。
多くの反響を頂き、ありがとうございます。順次お返事いたします。
ディスレクシア英語指導に生かしていきます。

今回は、合格後や指導時に聞いた、印象深い言葉を書いておきます。

その(1)はこちら→
その(2)はこちら→

~  ~  ~

①「情報が転回する」
コスモが直接ここに合格体験記を書いてくれることはありません。
思いを文章にするのが非常に困難なタイプのディスレクシアなのです。

一応話を振ってみたところ、頭を押さえて
「情報が転回する…」と言っていました。
「テンカイって何?」とつい聞いてしまいました。
「頭の中に言葉の断片がぐるぐるしてて、順序よく並べることができない」
という意味のようです。

字がまずまず書けるようになったディスレクシアにとっての
次の課題は「文章を書く」ことだと、つくづく感じます。
(うちの子も、卒業文集ではとても苦労しました)
誤字脱字もですが、脳内映像を線形的な言語に構成するのが課題のようです。
「脳に内視鏡のようなものをさして、頭の中にあるものを壁に写し出したい」
的なことも言っています。


ただ、文章を書くことは非ディスレクシアも意識的に学ぶ技術なので
ディスレクシアでも訓練によってある程度は書けるようになる気がします。
(文章を書くことを仕事にしているディスレクシアもけっこう多いです。
ストーリーテリングが得意なタイプのディスレクシアです)

人にもよるのでしょうが、短期的なディスレクシア作文対策としては
・マインドマップ
・断章を付箋に書いて並べ替える
・聞き書き(指導者がディスレクシアの子に質問を投げかけ、話し合いながら論点を整理する。それをもとに作文内容をふくらませていく)、
・添削を受けては書き直す
・・・あたりが有効だろうと推測しています。

長期的には、読み聞かせや読書といったインプットが大事だろうと思います。
「自分がディスレクシアでも日本語の読み書きには困難を感じないのは、幼い頃に読み聞かせをたくさんしてもらったから」という意見も頂きました。

ついでに、書くことに関連して、
大学に入っても、定期試験さらには履歴書で直筆が要求されるので
高校時代ほどでないにせよ、手で字を書くことは意識して続けたほうがいいようです。


考えずに感じようよ!(怒)
「文章を書くのが苦手」の話をしていた時に出た衝撃発言。
音楽を鑑賞し、その感想を書かされるのは、ほんとにムカつく。
感じるだけでいいじゃないか、
なぜわざわざ言葉にして書かなければならないのかと。


ヨガ教室で毎回言われる「考えるのをお休みして、ただ感じて下さい
哲学者ヴィトゲンシュタインの有名な言葉
語りえぬものについては、沈黙しなければならない
と重なります。

一方、いかにムカついたのかを熱く語ったコスモ君を見ていると、
とっかかりがあれば、どば~っと言葉が続くようにも見えます。
その力を作文対策に生かせないだろうか…とも思います。


③「最低限の定理しか覚えない」
数学や物理の定理は、最低限のもの(例:加法定理)だけ覚え、
そこから導き出せる定理は覚えることをあえて放棄して、
いちいち導き出しているそうです。

だから解くのにものすごく時間がかかってしまいますが、
ある意味、原理をより深く理解しているとも言えます。

どれが最低限かは、個別塾の講師が教えてくれたようです。
微に入り細を穿って説明してくれましたが、途中からついていけず(笑)


④「落ち込んどるわ(怒)」
次の発言により炎上しないといいのですが…と前置きした上で、
私の観察するところでは、
一部のディスレクシアの人が過集中したり疲れたりした時の様子は、
人を小バカにしているように見える場合がある気がします。
疲れると怒っているように見えたり(←うちの子)
ぽろっと答えたことが、人を食ったような物言いと捉えられたり・・・

コスモ君とはこの話でかなり盛り上がりました。
「部活の先輩に『態度が悪い』と誤解されて人間関係が険悪になった、
結局分かってもらえたけど」
「親に『なんとか言ったらどうなの?!』と怒られても、
そんなときは「なんとか。」と返すしかない(爆)そうするとさらに怒られたり」


そこから達した結論は・・・
誰でもそうだと思うのですが、ディスレクシアの場合は特に
愛されキャラ」になることがサバイバルの秘訣だろうと。
普段から「なんか憎めない、手伝ってあげたい」と思わせることで
疲れたときに「態度が悪い」と誤解されるのを避けられる気がします。


ところでコスモ君は自他共に認める「スーパーポジティブ」です。
ひょうひょうとして明るいと言いますか。
お母さんは「彼の明るさに救われた」と言っています(と本人も言っています)。

私も、「ここまで全敗で何と声をかけてあげよう…」と思って彼に会うと
全然落ち込んでいる様子がなく、ひょうひょうとしているので
「コスモと話していると、こっちが安心させられちゃうよ」と言ったこともあります。

その頃の心境を合格後にたずねると
「『ま、何とかなるっしょ』と思う。色々考えてもしょうがないし」と言う一方、
『ちったあ落ち込めよ』と言われて『落ちこんどるわ()』と思う
だそうです・・・

直観的に思うのですが、
私には彼のポジティブ思考は、彼が身につけた愛されキャラの一形態で
その下には悲しさ切なさ、諦めをたくさん持っている気がします。
でも、それはがっちりしまい込んであって、そう簡単に表には出てきません。
ひょうひょうとした明るさは、さまざまな誤解を経て彼が編み出し
もはや無意識化している愛されキャラだというのは、言い過ぎでしょうか・・・


⑤「自分はセカオワの人と同じやつなんだ」
「高校での教師の無理解を正そうとは思わなかった?」と聞くと
「ど~でもいい。言おうと思ったこともない。『ま、いっか』って感じ。」

高校時代は、友達にも一切、
ADHDやディスレクシアについて言ったことはないそうです。

学校ではあえて言わないというのも一つの方法です。
でもそれが諦めから来ているなら、一日のけっこう長い時間を過ごす学校が
それなりに切ない場所になるのもまた事実です。。

コスモはこの点については、初冬のころに心境の変化があったようで
(薬の効果かもしれません)
予備校でできた友人に言ってみたそうなのです。
その時の伝え方は
「自分はセカオワの人と同じやつなんだ」
「それっけがあるから。いろいろ忘れるし」
「最近こればっかり聴いてる」「聴いてみますか?」と言われて一緒にiPod Touchで聴いた曲。
「『99戦中99敗♪』の心境なわけ?(゚A゚;)」と聞くと「まあ」


「大学では、言う気になったら言うし、言う気にならなかったら言わない。
でも、サークルとかで親しくなった人には、言いたいかも」

大学生くらいになったら、大切に思う人には
自分の言葉でこの特性を言えたほうがいいと思います。
あるいは、この人には言いたいと思える相手こそが
自分にとって大切な人になるのかも…


⑥「僕って困ってるんですかね?」
「親は僕のことを心配しすぎる」という流れから出た衝撃発言。
(念のため…コスモのご両親は共通認識を持ち、精力的に動いていますが
過干渉ではないと思います)

これはいったい「親に子離れしてほしい」以外ではどういう意味なんだろう、

1)勉強以外では、この特性は有利である/何ら問題ない
2)人より苦労しているが、他人の苦労と比較できないので分からない/
苦労しすぎて苦労に鈍感になっている
3)何か違和感を感じるが、自分の中のもやもやにたどりつけない

・・・いろいろ考えてみましたが、実は全部なのかもしれません。


⑦「自分みたいな人に会ってみたい」
私が最も心を痛めたコスモ発言は
何かの折に「これは保存して孫に見せなよ()」と言ったときに
「自分は結婚とか子供とかとは無理だと思う、
親と同じような生活が想像できない」(T T)
結婚子供の是非はともかくとして、そこまで自信を失ってしまったのか・・・
と悲しくなりました。

しかしその後、
「実は一度だけ『この人となら分かり合える』と思える女の子に
高校で遭遇した。
その子は周りから『不思議ちゃん』と言われてたけど、
話してみたら自分にとっては全然不思議ちゃんではなかった()
もう一度会ってみたいけど、今はどこにいるのかな・・・」
と話してくれました。

「この地球上で自分は宇宙人だと思ってずっと過ごしてきたけれど
同じ星から来た宇宙人に初めて出会った」
という心象風景が目に浮かぶようでした。


その後、メールでご連絡を下さっていたディスレクシア受験生の方々の存在が
彼にとっては心の支えとなっていました。

ディスレクシアの人は、他のディスレクシアに会ってみたいようです。
その後、何かに発展するとか、そういう問題ではなく、
どちらかというと、自分を確認するために
ディスレクシアの人に会って話をしてみたいと思うみたいです。

同期あるいは同年代のディスレクシアの人が、
先輩後輩みたいな感じで会って話ができる機会があるといいんだな・・・と感じました。


⑧あいさつはやっぱり大事かも?!
これ以外にも、毎週多くのインスピレーションを与えてくれたコスモ君とは
さぞ感動の別れになるだろうと想像していましたが、
彼は「あっ電車が来た」と言って
ば~っと走って行ってしまいました・・・・・( ゜Д゜)ポカーン
ADHDのなせるわざですね。。。
「大学生になったら、あいさつができるといいね!」と伝えたいです(笑)



コスモのご両親は、大学の勉強についていけるか、かなり心配しておられます。
私が思うに、大学生活は
・自由度が増す分、自己管理が大変、
・テストが相変わらず直筆+時間制限付きである、
・卒論がある場合は文章を書くのに苦労する、
・授業担当教員の間で「この子はディスレクシアだから」といった情報が共有されるとは考えにくい

一方で、
・授業で各種ツールを使える(スマホで録音・撮影)
・レポートで取れる単位も多い(=キーボードが使える)
・興味のある科目の割合が増える
・大学の試験は、友人と助け合って乗り切るものである
・たまたま、彼の進学先には発達障害支援センター的なものがある
(「大学名+発達障害」で検索すると、あればヒットします)
・となれば、教員に上手に直談判すれば配慮してくれそう
・なりたい職業などが明確にある場合、モチベーションを持ちやすい
・ゼミや研究室では、教員と密接に関わるため、杓子定規な扱いを受けない可能性が高い

なので、これまでより苦労は減ると思うのですが・・・
まずは大好きな音楽を取り戻して、大学生活を楽しんでほしいです!




2015-03-22

ディスレクシアでADHDなコスモ君の合格体験記(2)「彼にとって受験勉強は、自分への自信を取り戻す一歩だった」

前回のコメントでは、センター試験の配慮の話について、さまざまな角度からの指摘を頂き、ありがとうございました。
16年春からは障害者差別解消法が施行され、教育場面での合理的配慮の提供が義務づけられる(読売新聞より引用→)とのご指摘もメールで頂きました。


まったく何の合理的配慮も受けずに大学入試に挑んだ
コスモ君の合格体験記の続きです。前回はこちら→

今回は、かなり具体的なディスレクシア英語指導の話です。


☆  ☆  ☆

8月下旬に集中的に指導を行い、
受験業界で「構文」と呼ばれる、読解用の文法事項の確認を行いました。
(高2の3学期に予備校で使っているプリントを使用)
その結果、8月末には、SVO、主節と従属節、関係代名詞節、前置詞+名詞、
受動と能動、節の範囲について理解しました。
この頃の進みは本当に早かったです。
一気に高3の始めあたりまで来ました。

9月に入ると、大手予備校の授業を数コマ切り、英語は私と週2時間、
理系科目はご両親が知り合いに勧められたという
片道1時間半かかる個別指導塾に通い始めました。
英語は、大手予備校のテキストも使いながら、引き続き構文の確認。
この頃のことはこちら→
ガンダムの単語帳を作り、少しずつ文章を読み始めたのもこの頃です→

この頃、「個別と大手、どちらが良いか?」と聞いてみたところ
大手は説明のうまい講師がいる点が良い。
高校の授業は全然分からなかったので、もっと早く行きたかった」。
大手を否定すると思っていたのでこれにはびっくり!
耳からの理解力が高いディスレクシアらしい指摘だと思いました。

この頃から最後までは、2時間の英語の指導以外に、
おやつを食べながら自由に話す時間を小一時間取っていて
親の話、好きな音楽や楽器の話、ゲームや部活や友達のこと、将来のこと
ディスレクシア感覚やADHDのこと…実にいろんなことを話してもらいました。
彼はとても能弁です。
話が暴走すると、主語がなくなって「いま何の話してる?」になったり
時系列がよくわからなくなったりするのですが(笑)、
ガンダムワールドが現実と地続きと思わせるような話しぶりだったり、
すごく独創的な分析をしたり
(デジャビュについて語ってくれたのもこんな時でした)
思い返しても、時間が歪むようなインスピレーションに満ちたものでした。

後にも書く通り、彼にはこの時間が、合格するために必要だったと思います。

あと、コスモ君は「ボキャ貧」を自称していますが、
和訳や話しぶりからみた彼の言語感覚は、人並み以上に繊細でした。
おそらく、頭の中にある絵に言葉が追いついていないんだと思います。
圧倒的な脳内映像のごく一部しか話し言葉にできず、
そのまたごく一部しか書き言葉にはできないようです。


~ ~ ~

私が彼の真の困難をようやく分かったのは、9月末のことです。
もっと早く気付いていればと、申し訳なく思います。
それは・・・彼の英語に関する最大の問題は、構文ではなく、
単語がとにかく覚えられない点だったのです→★

イメージ化できない単語は覚えられない」ことは本人も自覚していました。
なかでも抽象概念にまつわるものは、品詞を問わず大変です。
relation、improveなどは20回はテストしましたが、覚えてもまたすぐ忘れたり。
結局は良い方法が見つからないまま、入試に突入することに…

ディスレクシアは、エピソード記憶が強いと言います。
もし、高2くらいまで時間を戻せたなら、
覚えられない単語をひとつひとつ「体験」したらよかったのかもしれません。
(粘土で作ったり、演じてみたり、その単語を含む例文か絵を作ったり?)
でも、浪人の11月に、そんなことをする余裕はありませんでした。

~ ~ ~

もう一つの反省点は…
彼は転導に苦労していました。すごく気が散りやすいのです。
また、転導を抑えようとすると過集中になり、
その結果、彼の言葉によると「ぷっつんする」のにも苦労していました。
ぷっつんしてしまうと、授業中でもしばらく心ここにあらずになり、
気付いたら黒板がいっぱいに埋まっていることが、よくあるそうです。

なので指導中も、休憩や上のおやつタイムを入れたりして、
燃え尽きそうになる前に休むようにしていました。
信頼関係ができ、新しい薬(ADHD用)の効果が出てきてからは
転導しそうになったら「今は戻っておいで!」と注意できるようになりました。
これらは正しかったと思います。

しかし、転導の激しさゆえに宿題ができないというのは、盲点でした。

課題が途中までしかできなくても「いいよいいよ」と言ってきたのですが、
だんだん課題をこなさなくなってきました…。
「ここまでやっておいで」と言われたことができないと、
他の受験生と比べて、どうしても伸びは鈍ってしまいます。

(我が身を振り返っても、
途中でやらなくなってしまうのはADHDの問題だと思います。
ADHDのない純粋な(?)ディスレクシアだと、
やると決めたらとことんやり遂げる人が多い気がします)

視写も、12月に入ってフェードアウトしてしまいました。
視写はうちの子含め、複数の人で効果を確認している→だけに、
その効果の第一発見者が最後まで取り組まなかったのは、残念でした。

強く言わなかったこちらが悪いのですが、
「もう一つの個別塾が夜遅くまである」「予習復習に時間がかかる」
「最近食欲もないし、夜は眠れない…」(彼はとっても細くて白い)
と言われると、
「それでも決めたところまで解いてきなさい」とは言えませんでした。
年末にかけては、体力も低下して大変そうでした。

宿題をきちんと出してもらえるような別のアプローチがなかったか、
悔やまれます。

~ ~ ~

一方、12月に入ってからセンターや志望校の過去問を読み始めると、
コスモの驚くべきディスレクシア的読み方が明らかになりました。
それは「単語の覚えられなさと表裏一体の高い文脈推測力
とでも言うべきものです。

単語が覚えられないなりに演習をするにはどうすればいいか考え、
単語の意味を書き込んだ問題文を用意し、目の前で取り組んでもらいました。

単語の意味を書き込んだセンターの過去問。
12月末の時点で、これが解けるようになりました(時間と単語力さえあれば)。
浪人決定時と比べれば格段に力がつきました

このような形の問題文を作ると、
彼が普通とはまったく違う読み方・解き方をしていることが、明らかになりました。 

本文の前に設問を読みます(これは非ディスレクシアでも同じです)
違うのはそれからです。
設問のキーワードを本文中をスキャンするように探し、
見つけたら、本文はその前後だけを頑張ってじ~っくり読みます
下線部があれば、下線部とその前の一文だけをじっくり読みます。
それだけで、問題に正解してしまうのはもちろん、
読んでいない部分の内容も、ほぼ正確に推測できるのです(!)

15秒の映像を10本見て2時間ドラマの内容を理解するようだと思いましたが
本人も「一瞬を見せられれば流れは分かる」と説明してくれました。
断片から全体が分かるらしいです。

内容一致問題では、
この流れで、こんなこと言うわけないでしょう(プゲラ)
「さっき○○と言ってたのと矛盾する。サヨナラ!」
みたいな調子で、とても直観的で的確な根拠を挙げていきます。

それに、一度読んだ内容はとてもよく覚えています。
私「そんなこと書いてあったっけ?」(一生懸命上から読む)
コスモ「ありましたよ。たしかこのへん」(視覚的に覚えている)
ということが、何回かありました。

ある単語の意味が分からないときに、別の大問の中にその単語を見つけて
そこから意味をあててしまうことも、たびたびありました。
暗号解読的な読み方ができるらしいのです→

彼は文章を線形的なものとしてとらえていません。
語やフレーズを断片的に見ていて、その間を縦横無尽に飛び回ります。
だから細かい抜けはいろいろあります。
でも、全体として言いたいことは、非常に正確に把握しています。

~ ~ ~

もし、普通の人の2倍くらいの試験時間が与えられたら、
大学側の想定しない解き方で、かなりの高得点を出すことでしょう。

でも実際には時間切れで完答できず、合格点にはなかなか達しません
(´・ω・`)

それでもなお、彼は「学力が足りない」のではなく
実力があるのに、それを学力として評価してもらえていない
のだと、私は断言できます。
何しろ、文脈は非常に深く正確に、把握しているのですから。。

~ ~ ~

現行の中堅以下の私大入試では、
読解問題であっても、設問は一字一句レベルを問うものが中心です。
ディスレクシア的には最も不利なタイプの問題です。
(滑り止めが全敗だったのは、このあたりのことも関係していると思います)

実は難関大になればなるほど、全体理解を問う問題が増えるので、
その点ではディスレクシア的には適していると言えます。

または、推薦を狙うのも手だと思います。
(この話をコスモ君に振ったら「提出物が出せなかったので評定でムリ」
と言われてしまいましたが(- -;))


本人には言いませんでしたが、12月くらいには
「もう一年頑張って、あらゆる手を使って単語さえ覚えれば、
第一志望はもちろん、その上も狙えるのでは?
辞書持ち込み可で文章が超難しい大学(例:慶應文学部)などは
実はかなり有利に戦えるのでは」と思うほどでした。

でも、第一志望でなくても大学生になれてほっとしているコスモ君を見ると
「もう一年頑張って実力を正当に評価してもらおうよ」とは、全く思いません。
それに、「単語さえ覚えれば」と言うのは簡単ですが、
実際はこれが、本当に本当に大変なので…

~ ~ ~

以上の勉強は、コスモ君にとってすごくハードで辛いことでした。

しかも彼は、受験勉強にモチベーションを持ちにくい状況でした。
というのも、もともと勉強面での自信を失っていたのに加え、
彼は弦楽器に並々ならず傾倒していた(いる)のですが、
私と会った頃は、それを職業にすることを諦めたところだったからです。
私が目にしているコスモは、音楽を諦めた「抜け殻」なんだと
感じることもよくありました。

では、どうやってモチベーションを作ったのか?
ここがうまくまとまらないので、とりあえず箇条書きにしておきます。

・ ディスレクシア向けの勉強をすることで、
英語が少しずつ読めるようになると、
モチベーションも上がった。
→つまり、目的と手段がいつの間にか逆転していました(?!)

・徹底的に自分語りすることは、自信を回復するには
どうしても通らなければならない道であった。
→それまで「そろそろ戻ろうか」と言ってようやく勉強に戻っていた彼が
(あるいは、そう言っても戻って来れないことも多々あった彼が)
2月に入り、ついに自分から「そろそろ勉強に戻りましょう」と言ったとき、
ようやく勉強する体勢になったんだ・・・と感慨深かったです。

・11月・12月と進むにつれ、不思議と表情が明るくなっていった
(言うまでもないですが、普通は逆です)
模試の数字は第一志望に届くまでは結局はいきませんでしたが
「この調子なら、まるで現役のように、前日まで伸び続けるだろう」
と思わせるものがありました。



コスモ君の英語の受験勉強は、
単語力や速さの点では道半ばで終わりましたが
自分への自信を取り戻す手段としては、それなりに効果があったと思います。
音楽以外に目指したい職業も見えてきました。
大学生活を通じて、さらに自分への自信を深めていくと思います。

☆  ☆  ☆

コスモ君本人に、受験と今後について、話を聞きました。
次回はその内容を紹介します。→

2015-03-17

ディスレクシアでADHDなコスモ君の合格体験記(1)

この記事が書けて、しみじみとうれしいです。
合格するまで、まとまったことを書くのは控えようと思っていたら、
書くべきことが膨大になってしまいました。
ディスレクシア受験指導の参考になるように書きたいです。
今回は、個別指導を始める前のことと、お母様の手記です。
それでは、行きます。

☆  ☆  ☆

ADHDでディスレクシア(書くのが遅い系)で、
圧倒的な音楽の耳を持ち、遊戯王とセカオワとガンダムが好きなコスモ君は、
このたび、某総合大学の理工系学部に合格しました。
これまでのことは→

現浪通じて初めて完答できた試験で、唯一の正規合格を果たしました。
他に1つ補欠合格。これより下のランクの滑り止めは全敗です。

センター英語は、現役60点台→浪人100点強(模試での最高は120点台)
合格した大学の点数開示によると英語は4割、数物は9割の出来でした。
「理系は理系科目が合否を分ける」を地で行く展開です。
(英語担当としては、ちょっと申し訳なく思います…)

~  ~  ~

コスモのお父様から初めてご連絡を頂いたのは、高3の秋でした。

県立二番手高校入学後から何かがおかしいと親が感じ始め、
ほうぼうに相談してADHDでディスレクシアとの診断を受けた、
学校の成績はどん底だが、学校に相談しても
単なる勉強不足だと言われ取り合ってもらえなかった、
予備校系の個別指導塾に行っているが成績は伸び悩んでいる、
どうしたらよいか…といった内容だったと記憶しています。

浪人が決定した3月に、お母様と本人と初めて会いました。
初対面のコスモ君は「ぼわ~っとしている」印象でした。

その日はお母様ともっぱら話をしました。

行政の発達障害相談室にも行き、有名病院での診断も受けていて、
私などより、よほど手を尽くしておられました。

そして、高校側の心ない言葉に、傷つき疲れ切っていました(ノД`)。
本人もさぞかし傷ついただろうと思うのですが、
それに劣らず、お母さんも精神的に八方塞がりの状況でした。

本人にセンターの問題を少し読んでもらったところ、
第2問(文法)の選択肢の単語もまともに読めませんでした。
このときの英語力は中3レベルと思います。
(念のため:彼は高校入試を突破してます。)

お母様が席を外したすきに、初めて直接話しました。
あっけにとられたのはこの時です。実は彼はめちゃくちゃ聡明なのです!
これは私の洞察力がすごいという意味では、断じてありません。
ちょっと話すだけで、語彙は豊富だし、頭の回転はいかにも速そうだし、
賢い子だとすぐ分かりました。

(その日の心境について、後になってたずねたことがあります。
「『親には黙って従うしかない』ような気持ちだったの?」と訊くと、
「そんなことはない。親がすることは基本的に信用しているから…」
とのことでした。)

ともかく、いくら賢くても、設問の単語が読めないディスレクシア受験生が、
大手予備校の大教室の授業で力がつくとは思えませんでした。

なので、帰りがけに
「まずは構文をしっかり固めたほうがいいよ。
たぶん××ではそれは無理だよ。これじゃダメだと思ったらいつでも連絡してね」
くらいのことは耳打ちしたと思うのです、が、
4月から彼は某二大予備校の私大理系クラスに通い始めました。

果たして、6月の模試では、英語の偏差値は30台、
理系科目に至っては20台だったそうです※。
この結果に絶望したご両親からご連絡を受け、個別指導が始まりました。

(※私の予備校講師的経験をもとにした予感があたったのはここまで。
その後の彼の軌跡は、普通の受験生とはまったく異なるものでした。)


お盆の頃、私が教える某現役予備校の講師室に現れたコスモ君は、
ひょうひょうとしていました。(道に迷わず、時間通りに来ました。
ご両親が奔走し振り回されていても、本人は台風の目のように静かで明るいのです。
これは最後までずっとそうでした。

~  ~  ~

ここから具体的な指導の話が始まるのですが、
その前に、お母様に書いて頂いた手記をご紹介します。



コスモ母です

もじこさんのプログを通じ、コスモを応援していただきありがとうございました。
桜、咲きました。新しい春を迎えることができうれしいです。
多くの方に支えて頂いたお陰です。

ちょうど一年前、浪人を決めましたが
この一年間は怖くて不安でどうにかなりそうでした。
高校在学時の成績は全教科、海底のヒラメとしか出会わない状態で
それでも楽しくのんきそうに高校生活を過ごしている彼に焦る気持ちから怒り、
時には罵詈雑言を浴びせる日々でした。
躓いている原因が解ればとの思いから、彼の気になる事象を一つづつ
明らかにしていきました、辛かったですが必要なことでした。

躓きの大まかな全体像が解るまで2年以上かかり、
そこからスッキリするのではなく、心の葛藤が始まりました。
彼は学業の成績において結果は出ないが、前向きな精神で明るく
心身ともに健全です、ただ学業の習得と不器用さは…。
学業の習得に困難さがあると解っても、彼の在りのままを受け入れず、
この状態ではダメだと言い続けてるのは親の私のエゴではないか…
一方、いずれ親は先に死ぬのに、成果主義の現代社会に適応させるのも
親の責任なのではないか…。等々。

現実には、成績低迷で親として自信を無くし、大学によしんば入学しても
その先が…と思い悩みましたが、相談に行った先々で伸びしろは十分ある、
工夫次第で可能だと背中を押してもらい、彼もまた四年制大学を強く希望したので、
病院の先生の勧めもありセンター試験の時間延長の申請のために、
高校に診断書を提出しました。

結果から言いますと、支援を得られず、
センター延長申請には至りませんでした。
学校側からは
『各教科の先生に確認したが
授業態度は真面目で赤点でない、問題を感じない。
県立の中上位校なので成績低迷しているのでしょう、心配しすぎじゃないですかと。
進路は相談しないといけないでしょうね〜』最後にはボソボソと
『こんな子大学に行ってどうするんですか』 と。
世間からの強烈な一撃でした。世間はそんなもの認めないと…。
先生は心配でなく呆れてるんだと、恥ずかしさ、悔しさ
理解してもらえないかと、諦めの気持ち、ありとあらゆる感情が胸の中で
一挙に交差しその後も、今も残響音のように胸の奥で響いています。
何度も心がくじけてしまいそうになりましたが、
その度に色々な方の支えや励ましで頑張ることができました。
もじこ先生はじめ多くの方々に心から感謝いたします。
これからも、彼の特性には付き合っていかねばならず、
困難が待ち受けてるとは思いますが、
この一年頑張れたことを糧に進んでいきます。
ありがとうございました。

~ ~ ~

センター試験延長申請って、高校側の承認が必要なんですね。
ということは、高校側にディスレクシアの知識がない場合、
認められる可能性はかなり低いですね…

あと、その教師のとどめのセリフはひどすぎます(´;ω;`)
うちも小学校の教師にずいぶんひどいことを言われましたが、
そういう言葉は何年も、精神を蝕みますよね…

しかし、コスモ君の受験物語は一応ハッピーエンドで終わります。次回に続く!→


2015-03-09

「隠れディスレクシア」の著者が、日本のディスレクシアからの質問を募集します。

当ブログで、当事者の方からの反響が最も大きい記事である
隠れディスレクシア」の著者は、
アメリカで「ディスレクシアの長所」(Dyslexic Advantage)を推進している
エイデ夫妻とおっしゃる方々です。

エイデ夫妻に、「日本では『隠れディスレクシア』への反応が大きい」
 と伝えたところ、大変興味を示し、
「日本の読者からの質問があればぜひ受けたい」と言っておられます。

そこで、Dyslexic Advantageが出版された時のインタビューを訳しました。
以下の内容につきまして、あるいは「隠れディスレクシア」につきまして、
著者に直接聞きたいことがありましたら、ぜひお知らせ下さい!
質問は、日本語でも英語でもOKです。

こちらもあわせてどうぞ:「ディスレクシアであることの利点」

☆  ☆  ☆

<まとめ>

ディスレクシアは、脳の配線が違う。
全体像を描く力」「大きな流れを見抜く力
あるプロセスが今後どうなっていくかを想像する力」を持つ。
その分、細かいディテールの処理が弱い

ここから導かれる、ディスレクシアの4つの能力:

1)空間的理解力
 (三次元的に認識したものを組み立てる能力)
2)相互関連的な理解力
(他の人に見えないつながりを見抜く能力 
3)ストーリー的理解力 
(事実を抽象化せず、経験や例として理解する能力)
 4)事実関係が不完全または変わり続けるような不安定な状況で、筋道立てて考える能力

ディスレクシアだと、小学校の低学年の時に、得意なことと学校教育が要求することの間に大きなミスマッチが生じる
(これは日本では、小学校低学年に加え、「英語学習が始まる中1の時に」と読み替えられると思います)

得意を見抜き、それを伸ばすことに注力すべき。 
苦手を底上げする対策については、その子にあわせた方法を模索する必要がある。

☆  ☆  ☆

ディスレクシアは普通、障害と見なされている。読み、割り算の筆算、あるいは文字や数字の正しい向きがなかなか覚えられないといった心的欠陥だというのが一般的な考え方だ。
この見方に異議を唱える学習障害の専門家、ブロック&ファネット・エイデ博士夫妻は、ディスレクシアは脳の配線の違いであり、それは数多くの有利な点をもたらすと主張する。
学習障害の専門家であるエイデ博士夫妻は、The Dyslexic Advantage: Unlocking the Hidden Potential of the Dyslexic Brainの著者。ディスレクシアの利点についてのブログを運営しているほか、シアトル近郊でクリニックを開設している。

ディスレクシアの子は小学校低学年の頃は非常に苦労することが少なくないが、才能豊かなストーリーテラー、発明家、起業家になることも少なくない。
夫妻の近著、The Dyslexic Advantageは、ディスレクシアの本人とその家族が、ディスレクシア脳の利点を認識し育てる助けとなる。Wiredへのインタビューでは、ディスレクシアの利点について語ってくれた。
                   
--ディスレクシアを、実際に則して定義すると?

エイデ夫妻
ブロック:一般に受け入れられているディスレクシアの定義は、「子供の知能レベルにもかかわらず、また教育を受けているにもかかわらず、それに釣り合わない読みや綴りの困難があること」だけに注意を向けています。でも私たちは、現場にはこの定義は合わないと考えています。なぜならディスレクシアの表れ方は非常に大きな幅があるからです。

ディスレクシアで言語性IQ140145あり、読解力も非常に高いため、ディスレクシアと診断されない子もいます。[訳注:隠れディスレクシアですね。] そんな子は、ギフテッドクラスの他の生徒に比べれば、読みの速度は相対的に遅いですし、読みの遅さゆえに成績も伸びません。
さらに、ディスレクシアの学生の中には、読みの問題はそれほどでもないですが、他の分野、例えば書きや作文、暗記、計算作業などの問題の方が大きいケースもあります。実はこうした問題も、ディスレクシア的な読みや綴りの問題の原因となっている「脳の配線の違い」に起因しているのですが、従来のディスレクシアの定義は、音や言語の処理だけに焦点をあてていて、脳の配線の違いがもたらす広範な影響をとらえ切れていないのです。

--ディスレクシアをめぐる主な誤解は?

ファネット:大きな誤解に「ディスレクシアの脳は、紙に書かれた文字の処理方法だけが異なる」というものがあります。実際は、あらゆる情報処理に影響を及ぼす、普通とは異なる処理パターンを示しているのですが。
ディスレクシア脳は、全体像としてのつながりを見抜く点に強みを発揮する分、細かいディテールの処理が弱い配線になっています。
ディスレクシアの子の脳が、「普通の子と同じ発達過程をたどっているが、あまりうまくいっていない」と考えるのは、大きな間違いです。実際には、ディスレクシア的な処理方法を持つ子の脳は、普通とはまったく異なる方法で発達を遂げているのです。異なる接続や回路のパターンを確立し、普通とは違う種類の問題解決の方法を身につけます。その違いは脳の特定の部位にとどまらず、全体に及びます。
ディスレクシア的に通常の発達とは、78歳の頃には他の子供よりも読み方を学ぶのが当然のことながら大変になる、そんな発達過程のことです。そしてこの発達の違いゆえに、子供が学ばなければならないことと、従来の低学年の教育のあり方との間に大きなミスマッチが生まれます。教室で求められることと、その年齢で得意なことの間にギャップが激しすぎる。そのため、従来の教室では実力を発揮するのがとても困難なのです。

-- ディスレクシア脳の主な強みとは?

ブロック:近著では、ディスレクシアの利点を4点にまとめました。いずれも、ディスレクシア脳が得意な「全体像を描く力」「大きな流れを見抜く力」「あるプロセスが今後どうなっていくかを想像する力」が違う形で、でも相互に関連し合いながら発揮されたものです:

ディスレクシアのなかには、空間的理解力が非常に高い人がいます。三次元的に認識したものを簡単に組み立てる人たちです。デザイン、3Dアート、建築の世界に進んだり、エンジニア、発明家、有機化学者になったり、あるいは買ったものをレジ袋の中に非常に上手に詰めたりします。

相互関連的な理解力も、ディスレクシアの強みです。ここで言う相互関連とは、共通性(アナロジーなど)のこともありますし、因果関係のこともあります。物事をさまざまな角度から眺めたり、ある出来事や概念を取り巻く全体像や大きな流れを把握する力です。ディスレクシアには、領域横断的な分野で活躍する人や、複数の異なる分野や背景で得た視点や技術を組み合わせることが要求される分野で頭角を現す人がたくさんいます。複数分野のスペシャリスト普通と異なる職業的経歴をたどってきた人も少なくありません。こうした人たちは「他の人にはこれまで見えてこなかったつながりが自分には見える」と言うことが多いのも特徴です。

ディスレクシアは、事実を経験や例、ストーリーとして理解する傾向があり、抽象化しない傾向があります。私たちはこれが第3のディスレクシア的長所、「ストーリー的理解」だと考えています。
家族のなかで「昔のことをよく覚えている人」という位置付けであることが少なくありません。2年前のお姉ちゃんの誕生日に誰が何をプレゼントしたかを知りたいとき、ディスレクシアの子が覚えているのです。いわば家族の中の歴史家。でも、九九は覚えられない。それがディスレクシアです。
このような人たちは、ストーリーを語り理解する能力が重要な分野で頭角を現します。営業、カウンセラー、弁護士、教職につく場合もあります。
作家にもディスレクシアは少なくありません。ピュリッツァー賞を受賞した詩人のフィリップ・シュルツは、近刊My Dyslexia(『私のディスレクシアhttps://blogger.googleusercontent.com/img/proxy/AVvXsEi3zihZkj72hHk8MI3NNEJZvAI4Lf7HlUtAyhG8Elh19CfH1Zy957WWAbas6zyXUiIrXcSOwtl3Pqb3jrnZiRCktT9v9XkE1HRaBYNAySQp2DcXCSJ62G64d6AJEUv2MJZ5UmcpyU_mv6hn8_mMGpMeL6K_WluYWW2NwU5cR32CEXOfGmZvrPCow6OE5EE=』)についてニューヨーク・タイムズに寄稿した文章のなかで、子供時代についての非常に鮮やかな記憶を披露しています。こうした記憶力は、ディスレクシアにはごく幼い頃からよく見られます。

ディスレクシアの第4の長所は、事実関係が不完全または変わり続けるような不安定な状況で、筋道立てて考える能力です。この能力が高いディスレクシアは、実業界や金融市場で活躍したり、サイエンスのなかでも過去の出来事を再構築するような分野、例えば地質学や恐竜学などに進みます。刻々と変化するようなプロセスを相手に仕事をし、予測を立てることを得意とします。

--ディスレクシアの人は、そのような長所がひとつだけ見られるのでしょうか、それとも一人が複数のディスレクシア的長所を示すのでしょうか。

ブロック:ほとんどのディスレクシアの人は、これらの長所を複数持っています。私たちが知っているディスレクシアの8090%は、物事を物語的に理解し、かつその多くが変化する状況での判断を得意とします。空間把握能力はディスレクシアの本質的能力とされることが多いのですが、意外なことにそこまで多くありません。近著にはダグラス・メリルという、GoogleCIO[最高情報責任者]を何年か勤めた、非常に個性的で印象的な人へのインタビューが載っていますが、彼は「いま目を閉じたら、どちらの方向にドアがあるか分からない」と言っています。でも、それ以外のディスレクシア的長所はすべて持ち合わせていました。

--ディスレクシアには、苦手な種類の脳内処理があり、そのせいで得意な種類の脳内処理が見えにくくなっているとのことですが。

ファネット:小学校低学年の授業は暗記--それも耳や目からの情報を緻密に認識できる能力が前提になるような種類の暗記に偏っています。
機械的な暗記、そして緻密なディテールに焦点をあてる技術は、ディスレクシアの子なら習得に苦労することです。
しかし、小学校低学年では、まさにそういう種類の学習に力点が置かれているため、ディスレクシアに得意な、大きな視点で物事を処理する力や、経験を記憶する力が、見過ごされてしまう傾向があります。

ディスレクシアは「あることを反復学習することでそれを考えずにできるようになる」能力が欠けています。しかしそれゆえに、自分が関わった学習事項や仕事により深く関わったり、常に心に留めておいたりします。その結果、そのあちこちをいじっては改良していくことが非ディスレクシアより多いのです。

--Dyslexic Advantageには、「ディスレクシア脳は配線が違う」とあります。

ブロック:それについてはDr. Manuel Casanovaが大変興味深いデータを示しています。博士は何千人もの脳を分析した結果、「ミニ円柱構造」と呼ばれる脳内処理を行う部位の間隔が、釣鐘型の分布をしていることを明らかにしました。
ミニ円柱はニューロンの束で、まとまって一つの単位として機能します。ミニ円柱が密集している人と、間隔の開いている人がいます。
ミニ円柱の隙間に軸索が伸び、軸索同士がつながってより大きな回路になりますが、ミニ円柱が密集して隙間がないと、似た機能を持つ近隣のミニ円柱が密につながります。結果、高速処理や微細な処理を行う回路が出来上がります。類似するシグナルの微差を識別するような回路です。
そんな回路を持つ脳は、脳の離れた部位同士のつながりが形成されにくい傾向があります。そうすると、背景・文脈、アナロジー(類推)、意義など、より高次の機能が育ちにくくなります。
博士によると、ミニ円柱の密度が最も高い集団には、自閉症の診断を受けた人が多く含まれていました。
一方、その対極にある、ミニ円柱の密度が低い集団の人たちは、脳の中でも異なる機能を持つ部位のつながりが強い傾向が見られました。そういう人は、昔の出来事を生き生きと記憶したり、複雑なシミュレーションや比較を頭の中で行ったりすることが得意になります。
博士によると、この集団にはディスレクシアの人たちが多い傾向があったのです。

--ディスレクシアの子を持つ親へのアドバイスを。

得意を見抜き、それを伸ばすことに力を注いで下さい。「うまくいっていない点を正す」ことに重点が置かれ、うまくいっている点をほめて伸ばすことが、あまりにないがしろにされがちです。
その一方で、苦労している分野のパフォーマンスを高める手助けについては、その子に合わせて変える必要があります

ディスレクシアの子のなかには、自分と同じくらい賢いクラスメートより苦労していても、そのことにあまり悩まないケースもあります。学校で友達といるのが大好き、そんな子たちです。こういう子は、通常学級で勉強し、苦労する分野だけ通常学級の外で支援を受けるのがよいでしょう。 
しかし、他の子があっという間に学習内容を習得する様子を目の当たりにしたり、教師にみんなの前で注意されたり、笑われたり、圧力をかけられたりそんなことに堪えられない子もたくさんいます。
そういう子供たちが、自己イメージをどんどん低下させたり、不眠になったり、ものごとをこなす力がどんどん低下するのを見るのは、本当に悲しいことです。発達の仕方に合った教育をしてくれる場所に移す必要があります。具体的な方法はDyslexic Advantageの本に書きました。とにかく、こういう子供達は、なぜ苦しんでいるのかを理解できないまま辛い学習環境にあまり長くいすぎると、壊れてしまうこともある。そう認識することが重要です。

--もし選べるなら、ディスレクシアになりたいですか。

もちろんです!特殊ですごい脳の配線ですよ。

2015-03-03

隠れディスレクシアの高校生へのお返事

高校生の方から、「隠れディスレクシア」の記事にご質問を頂きました→
お返事が長くなりましたので、ここに載せます:

~~~
壱さんへ。

10代半ばにして「私の人生は動物に捧げる」と誓ったんですね。
よほどの体験があったんでしょうね。素敵です(^◇^)。

こちらはもうご覧頂けたでしょうか:
「ディスレクシアは動物の扱いが上手」


「動物感覚」
著者のテンプル・グランディンさんはアスペルガーの動物学者です。
アスペルガーと動物の気持ちには、共通点が多々あるのだそうです。


◆ディスレクシアのカミングアウト?について

早速ご両親の理解を得られてよかったですね。「個性に名前がついただけ」と言えるご両親は、度量の大きい方々ですね。

ディスレクシアな生徒達の話を総合すると、信頼できる人や分かってくれそうな人(部活の仲間、信頼できる教師、親友など)にだけ、「ディスレクシア」という言葉を使わずにさりげなく、自分はそういう系の人だと言うみたいです。
専門用語を使って分かってくれそうな人には、ちょこっと使ってみたり。
相手が知っていそうな有名人の名前を出して「あれと同じ」みたいな言い方をしている人もいます。

言ってみると、意外と分かってもらえたり、自分も実は…みたいな話になったり、助けてもらえたり、ということがよくあるらしいです。
なので、相手を選んで、ちょっとずつ、さりげなく言ってみることをお勧めします。

逆に、理解してくれなさそうな人については、無理に分かってもらおうとしないほうが得策です。たとえそれが担任などの重要人物であっても。
これが2015年のディスレクシアをめぐる日本社会の現状です。
10代の人にこういうことを言わなければならないのが情けないです。。


◆検査について

診断がほしい場合は、発達障害を専門に診る病院に行くことになります。ここでは特定の病院を挙げることは控えますが、もし知りたい場合はメール下さい(mojiko222アットgmail.com)。このブログの読者の方々から教えてもらった病院をリストアップすることができます。

壱さんの場合、診断をもらう最大のメリットは、センター試験で診断書を提出して申請すれば1.3倍の時間延長を認めてもらえる点だと思います。これを有利と感じるのであれば、診断をとって損はないでしょう。

一方、診断をもらったからといってディスレクシアは治りません。ディスカリキュリアもしかりです(- -;)。

ディスレクシアは診断が下ろうが下るまいが、自分がそうだと自覚したら、
(1)得意を伸ばして周囲に貢献する、
(2)不得意なことはあえてしない・助けてもらう・失敗しても大目に見てもらう、
(3)不得意を通常とは異なる方法でカバーして、傍から見て不得意が存在しないかのような状態を作り出す

…を、ずっと微調整しながら実践(試行錯誤とも言います)し続けるもので、治療して治すものではないです。

壱さんも、すでに(3)の方法をいろいろ持ってますよね?「名前は呼ぶ可能性のある人だけ全力で覚える」や会話の掌握の仕方は、まさに不得意をカバーする戦略ですよね。
(ところで、名前はディスレクシア的には覚えにくいことの一つと皆さん言います。うちの子も小5あたりですでに、「相手の名前がわかんない時は『お前、名前なんだっけ?』て聞くわけよ。そうすると『ハァ?スズキだよ』って言うからさ、『違う違う、下の名前だよ』って言うわけ。そうすると教えてくれるじゃん?そうやって人の名前を聞き出すのさv」などと得意げに言ってました(笑))

で、「隠れディスレクシア」の人は、こういう戦略をたくさん持っているようです。
そうすると、検査をしても引っかからない可能性があるようです。何しろ「隠れ」なのですから。。

なお、ディスレクシアの診断に最も使われているWISC-IVという検査には16歳11ヶ月までという年齢制限があります。

~~~

以下は質問からは外れますが、よろしければ。

◆特定の周波数が聞こえない
三歳からピアノを習っていたため、絶対音感はあるのですが、特定の周波数(電子音のソなど…精密検査はしていませんが、自分で把握はしています)が聞こえません。難聴だと思っていましたが、これはディスレクシアが関係あるのでしょうか?
「特定の周波数が聞こえない」のは、ディスレクシアと関係あると思います(!)

「トマティス」という聴覚トレーニングがあります→
すべての周波数の音をバランスよく聞けるよう聴覚をトレーニングすることで、発達障害をケアするというものです。
私は子供ともども、トマティスの自宅トレーニングを去年の夏から秋に受けたのですが、いまだにじわじわと変化が来ています。
壱さんのように、「特定の周波数の音が聞こえない」という自覚がはっきりある人なら、奥深いところから効果があるような気がします。。。一応、お知らせまで。
トマティスのリスニングチェックテスト→



◆受験勉強について

私は予備校講師(英語)という職業柄、進学校に通うディスレクシアも毎年見て来ました(現在の担当クラスにもいます)。やはり非ディスレクシアと比べるとケアレスや誤字がどうしてもなくならなかったり、日本語にまとめるところで苦労するケースが多いです。それをまた人一倍のがむしゃらな努力でカバーしようとします。

ディスカリキュリアとなると、さらに知られていないので、単に「数学が超絶に不得意」で片付けられていることが多いと思います。

「定理を覚えられないのでいちいち証明しなければならない」は、当ブログにもたびたび登場するコスモ君もまったく同じことを言っていました。
ある意味、それができるほうが賢いと思うのですが、でも入試では大変ですよね。。


あくまで一般論ですが、進学校に通う隠れディスレクシアにとっては:

・客観式よりも記述式の試験問題のほうが得意
私大よりも国公立の問題のほうが、基本的には向いています。

・大量の問題をすばやく解くよりも、少ない問題数をじっくり解く入試のほうが得意
前者の筆頭は東大です(苦笑)。ケアレスミスに厳しい、スピーディーな処理が要求される、そんな東大入試はディスレクシアにはとことん優しくない試験です。

・満点競争よりも、難問のほうが有利に戦える
易しい問題を出し、満点近い点数を取らないと合格できない大学(地方総合大学の医学部など)はディスレクシアにはかなり不利だと思います。それよりもひらめきを要求されるような難問を出題し、合格者平均が低めの入試のほうが、ディスレクシア的には有利です。


・・・という傾向があるかと思います。

とはいえ、一番大事なのは、行きたい大学・学部を自分の意思で選び、そこに入りたいというモチベーションをしっかり持つことです。「ディスレクシアは普通の人よりもモチベーションの力に後押しされる」と「隠れディスレクシア」の原著者も言っています。

きっと壱さんは、そのあたりの問題はクリアしていることでしょう…!

何か質問があったら、また遠慮なくどうぞ。