on dyslexia

ディスレクシア
(読字障害、読み書き障害、失読症、難読症、学習障害、読み書きのLD)について、調べて分かったこと/実践したこと/英語から訳した文章をアップしています。

ディスレクシアとは:
-
​​
知能は普通だが、読み書きが苦手(誤字が多い、読み書きが遅い、読み間違いが多い)。
-勉強しているにもかかわらず、読み書きがなかなかできない状態を指す。知的障害ではなく、普通~ギフテッドのあらゆるIQにみられる。
-
​​
独創的で、​​対人能力が高い。
​​
全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力
に長ける。
- ​音と文字の脳内での結びつきが弱いことから起こるらしい
- ​読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい。その理由は、英語のほうが日本語よりも"音の粒"が小さいから​
- ​細​​​​かい聞き間違いがみられるが、音声情報の処理能力は高い
- エピソード記憶が得意。固有名詞などの細かい丸暗記は苦手
- 適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される
-
​ ​
10人に1人程度いるというのが通説
​。
- 家族性であり、遺伝による​。ただしディスレクシアの表れ方は個人差が大きい



当ブログは、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能である、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要--という立場です。


2018-04-17

合格体験記(1)「英語を楽しんで使える理想の自分を思い描きながら」

昨年度1年間、もじこ塾で英語を勉強し、この春から大学生になった生徒に、合格体験記を書いてもらいました。
(※はもじこによる注です)
☆     ☆     ☆

S.N.君(浪人,男) 一橋大学経済学部 合格

都内私立進学高卒、中学は地元の公立
浪人時の予備校:河合塾新宿校

合格校
現役:上智大学経済学部 横浜国立大学経済学部
浪人:明治大学政治経済学部 上智大学経済学部 早稲田大学商学部 慶應義塾大学経済学部 一橋大学経済学部(進学)

受験科目
英数国、倫理政治経済(一橋二次試験で利用)、世界史(センターのみ)、地学基礎、物理基礎
私大は政治経済優先。選択できない場合は数学受験

(※彼は数学と倫政がものすごく得意です。めちゃくちゃ馬力があり、試験時間の120分,英語を読み続けることはわけなくできます[普通の人よりかなりの負荷がかかっているはずですが]。知識量は相当あるうえインスピレーションのかたまりというか、視点がとてもユニークで、茶目っ気があります。
時空を飛び越えるような英作文を書き、時々主語が抜け、字は控えめに言って悪筆で[ごめんなさい]、余裕の合格答案が書けるようになっても最後までスペルミスや受動態や不規則動詞のミスがなくならない,私からするといかにもディスレクシアらしい生徒でした。
多動も不注意もこだわりもなく、時間は守り、寝落ちせず、宿題は全部やってきました。
彼とは、私が出講する予備校で出会いました。こちらは3回目くらいの授業でディスレクシアだと気づいていましたが,現役時は指摘せず。浪人決定時に報告に来たので「君はディスレクシアというものだと思うよ」と話して,もじこ塾に引っ張ってきました。)


ーーもじこ塾をどうやって知ったか。入塾の決め手は。
21月からxxxで成田先生の一橋英語を受講しており、3月に浪人の報告をしに伺った時に、留学したいので英語を伸ばす浪人生活をしたいと伝えた所、もじこ塾を教えてもらった。もともと、単に予備校に行くだけの浪人生活にしたくないと思っていたので、入塾を決めた。その際にディスレクシアの説明を受けたが、実のところあまり気にしていなかった。成田先生には私の解答を1年以上見てもらっていたので、これ以上自分を理解している教師はいないので、ぜひ個別で見てもらいたいと考えたのが入塾の決め手だった。

(※そりゃあ、私はSN君がディスレクシアだと見抜いていたわけですしね(^_^))


ーー他の予備校との兼ね合いは。英語はもじこ塾以外でも勉強したか。
河合塾は元々、英語の授業が多かった(平日毎日90)。もじこ塾で読解、英作文の対策をしてもらったので、河合の方では文法に力をいれた。現役の時はあまりやらなかった文法だったが、一浪して、大分よくなった。河合の宣伝になってしまうが、読解の太先生(東進でも受講可能?)の授業は良かった、英語の読み方が変わった。しかし、集団で単に講義を受けるだけの予備校より個別で先生に質問しながら勉強できるもじこの方が本来の自分の居場所という気がしていた。

(※SN君のインスピレーションに満ちた一面が答案に表れたときは「ほんとディスレクシア的だね」という指摘を積極的にしました。そういった指摘が無意識的に"居場所感"につながったら,もじこ塾に引っ張ってきたかいがあったというもの。
私にとって彼はどこまでもディスレクシア的で,そのディスレクシア感覚を目の当たりにするのは、美しい自然現象に立ち合うような(?!)、講師冥利に尽きる瞬間でございました。)


ーー入塾を考えている人へ、もじこ塾はどんなところと説明するか。
もじこ塾は、個人のレベルに合わせて、(ディスレクシアという特性も考えながら)勉強内容を変えて取り組むことができます。過去にxxxで東大クラスをもっていた先生から個別指導を受けることができるなんて、とてもお得だと思います。
私は、ディスレクシアのことなんてあまり考えずに受けていました。ディスレクシア用の特殊な指導を受けることも、ディスレクシアという特性をもちながら、普通の受験勉強をよりよくしていく場として活用することもできると思います。
また、私は小中高と様々な塾に通ってきましたが、個別指導は受けたことがなくて、個別でも集団でも変わらないだろうと思っていましたが、初めて個別指導を受けてみて意外と質問は先生を前にすると出てくるし、英作文のコメントを詳しく聞くことができたのがよかったと思っています。

(※「もじこ塾に行けるなんてうらやましい」と,定型の生徒に言わせたいですね(^^)。)


ーーもじこ塾で勉強したこと/話したことで、特に印象に残っていることは
5月か6月頃に先生の前で読解の練習をしたことがまず、思い浮かびます。本番の入試よりも難しいものを読もうというコンセプトのもと、先生が探してきた文章を先生の前で読みました。入試ではあり得ない長々々文で一部を先生の前で読み、読み方を学んで、残りを自分で読むことで、先生の前で読んだ時に学んだことを実際に試すことがしやすかったと思います。

(※SN君には毎週必ず自由英作文を1本、目の前で書いてもらうのと、時には読解問題を目の前で解いてもらっていました[→黙読]。こちらでは読む様子、書く様子をつぶさに観察し,いろいろ指摘します。ディスレクシア的には読み書きのプロセスそのものを改良したいわけですから、現行犯逮捕(?!)ができるよう,このような形式になりました。細かく観察されるのはかなり緊張したと思うけど、よく耐えた(?)と思いますよ。)
(※SN君の答案で一番印象に残っているのは,年末に自由英作文で書いてきたKnowledge interferes with innovation[知識はイノベーションの邪魔をする]という一言。それだけ知識量のある人がそんなことを言うなんて。。でもディスレクシアな発明家は異口同音にそう言いますね。)



ーー入試を振り返って、現役時との違いは。勝因は何だったと思うか。
現役のときは、安定して高得点が出せる倫政と不安定だけど得意な数学で押しきろうとしていました。その結果、数学が良かった模試の成績は良かったですが、本番は数学で失敗して落ちました。浪人時は、苦手な英語を克服しようと、もじこ塾に通って英語漬けにしました。私としては、一橋英語よりも早慶英語にも手をのばしたことで安定性が出て、得点も伸びた気がします。

(※
SN君を通じて私が改めて確認したのは、難関大を目指すディスレクシアには読み書きを極限まで追い込む指導が有効で、それを可能にするのは信頼関係だということ(→これを言葉で確認することは決してないですが)。追い込める教材を使う必要がありますし、本人が読むこと書くことに及び腰になっている状態だと、残念ながら効果は薄い。
もじこ塾に来る生徒には、読んで書いてどろどろになるところを、かまわず見せてほしいと思ってます。SN君はこの点で迷いがなかったですし、しかも、なかなかへこたれなかった(笑)



ーーディスレクシア的に、大学入試や受験勉強において特に注意すべき点はあるか。
基本的には、大量の問題を限られた厳しい制限時間の中で解くことを要求する試験は苦手だと思います。実のところ大抵の入試問題はこのパターンでセンターも早慶も向いていないと思います。私が受けた中では、一橋の問題だけが例外だったかもしれません。
そんな中で、このパターンを克服する方法の一つは難しく考えないことかもしれません。センターで特にこの方法が活用でき、イメージとしては脳をワンランクグレードダウンさせる感じです。フワフワ解くといったらよいのでしょうか、なんとも伝えにくいのが正直なところです。ただし、苦しみながらもこのことを念頭に置きながら訓練しないとこの技術は体得できないと思います。

(※「センターでは脳をワンランクグレードダウンさせる」は,このあと掲載する別の人も言っています。びっくり!)


ーーもじこ塾の生徒に、激励のことばをお願いします。
私たちは本当は自分の苦手な領域(英語など)から逃げて自分の好きな世界(数式など)に逃げていたほうが生きやすいのかもしれません。しかし、私たちの中には、先生が言うには(私は今も昔もあまり自覚はないが)ものすごい努力をして何とか今の英語力を維持して何とか大学受験に向かおうとしている人がいます。大学受験までの辛抱と思うかもしれませんが、大学に入ってからも英語力は必要とされ、私も留学のために既にさんざん練習してきたReadingでも更なるジャンプアップを必要としています。ここまでして英語を学ぶのなら、英語の楽しさを早く見出したほうがいいのではないかと、受験が終わってから思うようになりました。というのも受験が終わって、久しぶりに洋画を見たら、2年半前よりもはるかに英語が聞けて、意味が理解できる様になっていて、何倍も面白かったのです。苦労したら楽しさはあると信じていないとやっていけないと思うし、英語を楽しんで使える理想の自分を思い描きながら、皆さんには頑張ってもらいたいと思います。

(※美しい・・・(ノД`)
英語の読み書きは苦痛のはずなのに,目標達成のためにそれを克服しようとする姿勢は、本当に尊くて、私としてはSN君にはリスペクトしかないです。
苦手だった英語を留学仕様にブラッシュアップできたので、SN君は浪人して本当によかったと思いますよ。
12月頃に一段と英作文がうまくなった時は驚きました。合格後に聞いたところ「読解問題のストラクチャー[全体構成]やリズムを真似するようにした」と言っていましたよね。英語の文字-音の対応ではすくいきれない部分に反応して、それを再現できるようになるとは、なんてディスレクシア的な英語力の伸ばし方なのだ・・・と、感銘を受けました。)


ーー自分がディスレクシアだと知ってどう思ったか。現在はそのことをどうとらえているか。
自分がディスレクシアと知ってもあまりピンとこなかったし、今もまったく気にしていない。ただ、このことを知ったことで、予備校で先生のおすすめする学習法が自分に合っているのかを考える材料になったりと、自分の特性を知ったことで、得意を伸ばし、苦手をつぶす方法を考えるための新しい見方になっていると思います。

※ちなみに,一橋大学では,ディスレクシアの学生を支援してくれるそうです→

ディスレクシアの文字を大学の合理的配慮でみたのは初めてかも、、でもこの対応を入試でも行ってくれたら、一橋を本気と認めます(´∀`)

☆  ☆  ☆


SN君のように、進学校にもディスレクシアは確実に存在します。

おそらく診断はつかないでしょうし、本人も診断を受ける必要性を感じていないでしょうし、研究会で事例発表したところで「この生徒は困っていないのではないか?」と言われそうですが、でもこうした生徒も自分比で英語ができないことにすごく苦労していますし、通常とは異なるアプローチが有効だし必要だと、改めて確信するに至りました。

彼には、もじこ塾の今後の方向性を決めてもらったと思っています。

もじこ塾は今後、療育塾ではなく進学塾、それもバリバリの進学塾になる予定です^^。(注:あくまでもディスレクシア専用です)。

2018-04-12

もじこ塾だよりby笠野紺さん、「月曜日は『もじこ塾』」

「たくさん疲れて,たくさん頑張ってね(T T)」




もじこ塾は3年目に入りました。
正しい負荷のかけ方が少しずつわかってきた、そんな1年だったかもしれません。

ディスレクシアであっても、あるいは、ディスレクシアだからこそ、自力で読み書きできることはとても大事。
読むこと、書くことから逃げてはいけない。
自分でも驚いていますが、そんな結論に今はたどりついています。

(これは「板書を頑張るべきだ」とは違います。むしろ逆です。
純粋に読むだけ/書くだけの訓練を、する必要があるということです。)

というわけで、最近のもじこ塾では、ますます負荷をかけています。

そのあたりのことを、国立の教室の場所をお貸し下さっているとまつさんが書いて下さいました。→「月曜日は『もじこ塾』」
とまつさんはもと編集者だけあって、名文家です。もじこ塾国立教室の、なんとも言えない不思議な雰囲気が分かると思います。ぜひお読み下さい!
※国立教室の新中1クラスを募集中です。ご興味のある方はこちら→

~~

もじこ塾から大学に合格した生徒たちに、合格体験記を書いてもらっています。
順次こちらで紹介します。乞うご期待!!



2018-02-15

もじこ塾は教室開設1周年を迎えました。



ごぶさたしてしまい,申し訳ありません。
コメントを下さった方,ありがとうございました。

先週,もじこ塾の南新宿の教室は,開設1周年を迎えました。
みなさまの支えがあって,この1年で数十人の生徒を擁する塾になりました。
ありがとうございます。
何より,ディスレクシアな生徒たちから,インスピレーションをたくさんもらえたことに感謝しています。

もじこ塾では連日,授業を行っています。
国公立大前期2次試験まであと10日。ラストスパートです。

3月より,次年度の募集を開始します。
今年は,高校生の新規募集は,満席のためありません。
浪人生(または日中に通うことのできる高校生)の個別指導と,
中学生の少人数クラスで募集を行います。
また,中学生を対象に,春期講習を行う予定です。

詳しくは2月最終週にご案内できる予定です。
いましばらくお待ち頂けますよう,お願い申し上げます。

2017-12-23

もじこ塾だより(6)~ディスレクシアに筆記体を教える効果について~

斜めの姿勢は,きちんとした教育を受けている証拠なんですよ(笑)!
アトランタ後,もじこ塾では,中学生に筆記体の練習を始めました。

アトランタで買ってきた,オートン・ギリンガム(=ディスレクシア用)の筆記体練習帳を使っています。

この効果は,どうやら相当に高いです(*^_^*)

右利き用と,左利き用(゚∀゚)があります!

この本の著者は,後から知りましたが,こちらに登場するディスレクシア教育界のレジェンドのお方。ですので,この本も本当にディスレクシア・フレンドリーです。
・単純な形から複雑な形に(abc順ではなく),
・フォニックス読みできる単語だけを使用,
・余計なことをごちゃごちゃ書かないシンプルな紙面,
・単純明快な指示,
・・・など,ディスレクシアにとって取り組みやすい工夫が満載です。
サンプルページ→

この本の前書きに,「ディスレクシアに筆記体を教える利点」がまとめてあるので,訳してみます:

1) 手で覚える:1つの単語をダンスのように,1つの連続した動作で書く。このため,運動としての筆記体での単語の記憶は,スペリングの習得とその記憶保持に役立つ。

2)  左右反転が減る:筆記体の小文字はすべて,ベースラインから始まり,連続した動作で書く。ブロック体のように,1ストロークごとに紙から鉛筆を離すことはしない。

3) 単語のスペースが適切に開く:ディスレクシアの生徒は,単語と単語の間のスペースがうまくとれないことが多いが,筆記体だとこの問題がなくなる。文字と文字をつなげて単語を作るため,単語の終わりと始まりを決めやすくなる。

4) 書くほうが脳に良い:手で書くことは,タイピングよりも多くの認知リソースが刺激される。「子供たちは手で書くことを初めて学んだとき,読むスピードが増す。そればかりか,アイデアを思いつく能力や情報を記憶に保持する能力も,手で書いた場合のほうが高くなる。言い換えると,書く内容だけでなく,どうやって書き留めるかも重要なのだ」(原文出典こちら→)

↑えええ~まじ!!
ディスレクシア用の筆記体の本で,こういう言葉に出会うなんて・・・
このくだりを読んで衝撃を受けたのが,筆記体を教えようと思ったきっかけかもしれません。


すべての字は,ベースラインから始まり,基本的には「スマイル」で終わる。
1つの単語は一筆書きする。
この本は,単純な字形から始まり,だんだん複雑なものに進んでいきます。

左利き用は,文字の傾き方が違います。
ほとんどの生徒は言われるまで,筆記体の文字が傾いていることに気づきません


n,u,tとも,「来た道を帰る」のがポイント。
これが意外なほど難しく,かつ字形を整えるために重要



まるでネイティブのような字!

上と同じ生徒の普段の字

日本の中学ではかなり前から,筆記体は教えていません。なので生徒は筆記体は書けないのはもちろん,筆記体を初めて見たときには「この字は読めない」と言います。
しかしながら,それでもめげずに筆記体を教えると,実に多くの利点が明らかになるようで・・・

現時点では,日本のディスレクシアの子に筆記体を教える利点は,以下だと考えます:

1)リズムとして書字を覚えられる
筆記体はとてもリズミカル。体で拍子をとるように,または音楽の指揮をするように,書いている子もいます。
目や手以上に,ビートを使って?!書くもののようです。
そのことはおそらく,読字能力の根本的なところに良い影響を与えそうです。なにしろ英語はリズムの言語ですから…

2)必ずベースラインから始まるので,混乱が少ない
上にもあるように,すべての字が同じベースポイントから始まるので,混乱が減ります。
現に,「筆記体のほうが書きやすい」と言い始める子も出てきました。

3)左右反転が減る
一筆書きで,左から右に書いていくので,左右反転が起きにくくなります。
またbとd,pとqは筆記体だと形がかなり違います。仮にすべての字を筆記体で書かなくても,これらだけは筆記体風に書くことで,左右反転を防ぐことができます。

4)アルファベットの書き順を改めて知ることで,字形が整う
この効果が,意外と大きいです。
昨日も,dの筆記体を書いたあと,dが入った単語を(ブロック体で)何気なく書いてもらうと,書き順が間違っている(=棒から先に書いている)子がほとんどでした。
「dは筆記体でやったみたいに,〇の部分から書いたほうが,形が整うよ」と言うと,みんなびっくりしていました。今後このように,筆記体の知識を普段の書字に生かす場面が出てきそうです。

#こういうやりとりがあると,ディスレクシアの子も,実はきれいな字を書きたいと切望していることに気づきます。
#その気持ちに応えるには,書き順も明示的に教える必要があるようです。


5)数学の記号(ℓなど)が読めるようになる
生徒のほうから指摘されたポイント。
数学や物理で出てくる記号が読めなかったらしいのですが,筆記体を習いはじめたことで読めるようになったり,類推が効くようになったらしいです。

6)純粋な書字の訓練は,精神統一になる
習字や写経の効果と同じです。お手本を見ながら純粋に字を書く練習をしていると,教室にとてもいい気が流れます。・・・たとえディスレクシアであっても。

7)指に書字用の筋肉がつく
筆記体の練習は,手が疲れるようです。でも,その疲れこそが必要だと感じます。

もじこ塾は中1から浪人生までいるので分かるのですが,
字を書かなさすぎると,18歳になるころには指の筋肉が衰え,ほっそりした力のない指になります。そうなると,書きたくても指が言うことを聞きません。
一方,字をたくさん書いてきた19歳ディスレクシアは,字が汚くてもバリバリ書いていけるだけの筋肉が指についています。
13歳だと,まだそこまで指の筋肉に差はありません。ということは,中学生の時点ではまだ書くことは諦めてはいけないようです。
もちろん,よほどの書字障害などの例外はあるでしょうが。
でも,書字がつらい=書くこと免除!とも,どうやら一概には言えないようで・・・

8)筆記体ができるとカッコいい。筆記体を知っていると自慢できる
これこそが,筆記体を教える最大の利点。
筆記体が読めたり書けたりするのは,とにかくカッコいい! これに尽きます。
「学校の先生が突然,黒板に筆記体を書き始めたんですけど,クラスのなかで自分だけ読めた」
「友だちに『これ書ける?』と聞いてみたけど,自分のほうが上手に書けた」
「英語で名前を書くときは筆記体で書きたい」
・・・という話が生徒の口から出てくるのを聞くと,ディスレクシアの子も切実に,「自分も英語ができる」と言いたいのを感じます。
それを可能にしてくれるのが,筆記体という分野です。

そんな筆記体の練習なども,冬期講習では行います。
残席少しあります。ご興味のある方はぜひどうぞ→

2017-11-13

IDA@アトランタ報告(その4)~スタニスラス・ドゥアンヌ教授講演~




「New Studies on How Literacy Transforms the Brain
(読み能力はいかに脳を変えるか:新しい研究)」

アトランタまで行った最大の目的は,フランスの脳科学者,スタニスラス・ドゥアンヌ教授の講演を聞くことでした。 結論から言うと,(今の私にとって)非常~に驚きの指摘を得ることができました。今日から私の授業はさらに変わります(笑)

この講演は「ノーマン・ガシュウィン・メモリアル・レクチャー」と位置づけられています。ディスレクシア脳研究界の早世したスーパースターを記念し,読みの脳科学の最先端研究を一般人に伝えるのが目的だそうです。
「私たちは先人の肩に乗っている」の言葉とともに,オートンにはじまる過去100年弱のさまざまなディスレクシア研究者や教育者を紹介する映像が流れ,会場の熱気が最高潮に達したところで教授登場。こういう流れを作るのはアメリカ人は本当に上手です。

導入で「"Book"(本),それは非常によくできたツール」と,Macの新製品カンファレンス風?な動画で笑いをとりながら,講演は始まりました。フランス語なまりの強い英語で,画像が満載のスライドをばんばん見せながら,すごいスピードで話は進みます(+_+)

☆    ☆    ☆
「読めるようになると脳は変わる(Reading transforms the brain)。先生たちが子供に働きかけることで,生徒の脳は変わる。今日はそれについて語りたい。」

★ここで言うReadingは,読解力以前の,文字列を読む能力,
おそらくは1つの単語から短い1文を読む能力と思われます。

「話し言葉は努力なしで獲得できるし,脳には話すための専用の部位もある。しかし,読むという行為は後年になって発明されたもの。専用の脳の部位はなく,読字能力は,本来はその目的のためにでなく存在している部位が,リサイクルされて形成される。」

★別の脳科学者から聞いた話では,話す能力は10万年前の人類の祖先から原型がみられる一方,人類が読むようになった歴史はせいぜい56000年。人類はまだ読むための脳の部位を進化させるに至っていないのです。

左脳にあるこの部位を,教授はレターボックス(文字の箱)またはVWFA(Visual Word Form Area:視覚的に単語の形を認識する部位)と呼び,いよいよ本題に入ります。
#ここで改めて注意喚起。
この研究では,「単語あるいは文字列のの認識」を見ていきます。

「レターボックスは69歳の間に完成する。ハイパーレクシアだと5歳にはもうできている。」 
「この時に犠牲になるのは,顔を識別する部位。レターボックスが形成されるのに伴い,右脳に移行する」

★ちょw。顔認識ができないハイパーレクシアだったもじこは,きっとレターボックスができたときに,顔を認識する部位が右脳に形成されなかったんでしょうね。

「ディスレクシアの9歳児にはレターボックスがなく,顔を認識する部位も左脳のまま。だがこれはディスレクシアの結果であり,原因ではない。視覚的な困難はディスレクシアの結果であり,原因ではないことが少なくない。脳の可塑性を考えると,早く正すべきと思うが」

★脳の「可塑性(かそせい)」(plasticity)とは,平たく言えば脳が変われる性質を指します。

 「レターボックスは,形を認識する脳の部位を,読字能力に再利用することで形成される。これを「ニューロ・リサイクリング」(neurorecycling,神経の再利用)と言う」

★ここからは,さらにたくさんの画像を見せながら,話が進みます。
「レターボックスは,どのような過程を経て形成されるのか。就学直後の,読むことを学び始めたばかりの子供は(☆フランスの話です),レターボックスだけでなく,脳のあちこちの部位が,程度の差はあれ,一時的に激しく活性化する。その後落ち着き,2年生の終わりごろには努力なしで読めるようになっている。この頃には,音韻と文字の対応,音韻認識,そして流暢性を獲得している」 
「特に重要なのは自動化(automaticity。読むことが自動化していないと,数の認識や読解など,他のことに脳のリソースを回す余裕ができない」
★生まれた時点では,ヒトの脳は読むための部位を持っていない。就学年齢の頃に,書き言葉という刺激を与えると,文字に対して脳のあちこちが反応する時期を経て,2年ほどでレターボックスだけが活性化するような脳へと変化を遂げている。
以降は,読むという作業は自動化され,とても楽になる(少なくとも定型の場合は)・・・という流れです。
この「自動化」という概念が,このあと重要になってきます。

「レターボックスは,脳の可塑性の高い部位に発生し,そこに定着する。読字能力を鍛えない場合,レターボックスができるはずだった場所には,他の視覚認知(道具,家,顔など)が進出する。大人の場合は可塑性が低下し,子供の脳よりも固まっているので,脳を変えるのは難しい。例えば,2年にわたる読み訓練をしても,文字列の認識に努力を要する,つまり自動化に至らない」

★音楽家や数学者,さらには脳卒中でレターボックスの部位がやられた人の脳画像を見せながら,音楽家は楽譜を,数学者は数式を「かたち」として認識する力が高く,レターボックスをおいやっていることを,笑い話として紹介していました。あちらを立てればこちらが立たず” 的な。

★だんだん時間がなくなり,話がものすごく速くなって,メモも切れ切れに。

「音韻に関係する部位はレターボックスとは別にある。レターボックスが発達すると,話し言葉の認識力も向上するつまり,音韻認識とレターボックスは相互に関連しながら発達していくようです。あと左右盲の話もしていました


そして最後に,超駆け足で,驚くべき言葉が!!

「レターボックスとは別に,脳には「音韻に関係する部位」と,「意味理解に関係する部位」がある。 
子供においては,『文字→音』の回路,つまり「文字を見て,音を想起するつながり」 を開発する必要がある。この部分は難しく,教師はここを明示的に教える必要がある。 
子供の脳は『文字→意味』の回路を勝手に開発する。これが自動化だ

★( ゚Д゚)!!゚Д゚)!!
つまりこれは,「アルファベット言語でも,ある種の視読の域に達するのが理想形」ということのようです!!この発言を講演最後の3分で聞いたときは,足腰立たないほどたまげました。アトランタまで行って本当によかった()

しかも,もう一言,続きがありまして・・・

だが,最初から『文字→意味』の回路だけを,直接開発しようとしてはいけない。 
教師が教えるべきはあくまでも『文字→音』の対応」。

゚Д゚)!!゚Д゚)!!
つまり,
教師がホールワード*で読めているからといって,生徒にもそれを最初から要求してはならない。
(*ホールワード(whole word):stopをまるごと「ストップ」と読み,それ以上分解しない読み方。今なお根強い,反フォニックスの最大勢力)
あるいは,
結果として生徒が視読の域に達するのはかまわないが,教師が最初から「いいよいいよ,音にできなくても。意味だけわかればいいよ」と言ってはならない。
さらには,
ある程度熟達するまでは,英語の音を伴わない状態でのサイトラは有害
(*サイトラ(sight translation):英文を見て日本語の訳を言わせる,つまりThis is a penという文を生徒に見せて,教師も生徒もこれを読み上げない状態で,生徒に「これはペンです」と言わせる。通訳における重要なスキルの一つ)
・・・ということを,この発言は示唆しています。


★家庭の役割は別にあるのでしょうか。これについては
「『家庭内における本の存在』は自動化を加速するので,読み能力獲得の成功に役立つ要素」とのことでした。加えて「『就学前にたくさん話をして,話し言葉の語彙を増やすこと』『音韻の知識』」を挙げていました。

☆    ☆    ☆

終了後,サイン会があったので,持っていた日本語版『意識と脳』をプレゼントしながら少し質問してきました。
私は「脳」という文字を指さしながら
「これは音にしなくても,brainという意味だとわかります。漢字は「文字→意味」ルートを非常に作りやすい性質があります,漢字文化圏の読み戦略はアルファベットのそれとはとても違います」と力説したところ,

アルファベット言語でも,自動化がカギなんだよ(automaticity is the key.)

と改めて念押しされました( ゚Д゚)そうなんですね~~~

もう一つ,こんな質問をしてみました。炎上しないといいのですが…

「脳の可塑性が止まってしまい,レターボックスはそれ以降は形成されないという,年齢的な限界はありますか?」

これに対しては「可塑性は減るだけで,完全にはなくならない」と言っていましたが,なおも食い下がったところ「思春期は大きな役割を果たす気がするI think puberty plays a big role.)」と言っていました…。
思春期(+_+)女子は超不利ぢゃないですか。

最後に,
「超一流の人は知っていることを(少なくとも一般人には)出し惜しみせず,オープンであり,ユーモアがある」は私がディスレクシア・ジャーニーで知ったことの一つですが,ドゥアンヌ教授もそんな一人でした。

~~~

昨夜,無事帰国しました。
アトランタは遠かったですが,むちゃくちゃ勉強になりました!
教材を爆買いしてきたので,次回はそれらを紹介したいです。 

2017-11-12

IDA@アトランタ報告(その3)

スタニスラス・ドゥアンヌ教授の講演は,本の内容と重なるところも多かったのですが,非常~に示唆に富むものでした。これについては改めてまとめることにして,それ以外で印象に残った発言を書いておきます:

~~~

・「科学的には,読み方をどう教えればいいかは分かっている。
どうやってそれを教育の場に転換すればいいのかは,まだ分かっていない」

IDAのスーパースター,マリアンヌ・ウルフ教授による,ドゥアンヌ教授を紹介するスピーチの一節。
ディスレクシアの原因遺伝子もつきとめられつつあるし,ディスレクシア脳と定型脳の違いも解明されつつある。そういった研究成果を,どのように読み教育に落とし込んでいくかを,我々は一丸となって考えていかなければならない」…という内容でした。

このResearch to Practice(研究を実践に転換する)は,今回あちこちで聞かれた,IDAの目下のテーマのひとつのようです。

教師には,脳科学の成果を,本当に細かく具体的な授業のコツに活用しようとする姿勢が求められています。

また,どこに行っても,最先端の研究者,現場の教師,そして親や当事者が,完全に対等な立場で語っているのは,アメリカの良い部分が強く出ていると感じました。
日本の関係者も,この点は見習う必要があります。最大のハードルかもしれませんが…

マリアンヌ・ウルフ教授の発言にはもう少し続きがあって,
「同じ考え方をする人たちと,完璧よりも進歩を目指して進んでいく必要がある。なぜなら読めるというのは貧困を絶つ最大の道だから」。
脳科学の研究者が社会改良の視点を持っている点も,IDAの大きな特徴です。

~~~

・「支援と配慮は同時並行であるべき:読み方を学ぶ努力をすることと,読めないことを受け入れてもらうことは,手に手を携えて進める必要がある」(remediation and accommodation should go hand in hand)

「Never Too Late!(遅すぎるということはない)」という題名にひかれて軽い気持ちで参加した発表。行ってみたら,スピーカーは今日が90歳(!!)の誕生日,ディスレクシア教育を1955年から行ってきたという,IDAにおけるレジェンドのようなお方でした。
古き良きアメリカという感じの,白髪を美しくセットして,ピンクと黒のツイードのスーツを着こなしたおばあちゃんです。
受刑者にゼロから読み方を教えた話にはじまり,一言一言が重く,胸に迫るものがありました。

このおばあちゃんのフォニックスの教え方は,非常にリズミカルなアナリティック・フォニックスでした
(ブレンディングはdoesn't make sense to them[彼らには通じない]と言っていました)。
成人で,すでに話し言葉を運用している場合は,単語のなかから音韻を取り出すほうが楽なのでしょう。

まるでジョリーのダイグラフ(ch,oo,orなど,2文字で1つの音になるレターサウンド)のように接尾辞や接頭辞を扱っていたこと,空書き(air-writingと言います)をすること,母音に限っては(無意識なのか)ジョリーのアクション風のものをつけていること,文字を教える順番もabcではなく,頻度と難度に応じた独自のものを採用していることなど,日本人中学生に教えるにあたり,いろいろ参考になる内容でした。

生徒は本物の本から読まないといけない。たとえほんの少しの単語しか読めなくても。教師が残りを読んであげればいいのです
「『読み聞かせてもらう経験がなければ,自分で読もうと思うこともなかっただろう』(ある受刑者の言葉)。録音を聞くのと読んであげることは違います。読んであげることは,読解力と読もうとする気持ちを高めるための最良の方法。録音を聞いてもこれは起こりません。ある程度読めるようになったら,オーディオブックも良いのですが」

テクノロジーに逆行するような発言ですが…ことディスレクシア読み指導の最初の段階においては,教師と生徒が,呼吸をあわせて,ひとつのテクストに向き合うべきだと言っているのだと感じました。

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今回,よくわかったのは
アメリカ人も,ディスレクシアをめぐって,またディスレクシアを含む子供たちに英語をどう教えるかをめぐって,模索を続けている」ということです。
たとえば・・・「フォニックス」と一口に言っても,どういうフォニックスがベストなのかは群雄割拠,まだ誰も天下を取っていないようです。日本語にたとえれば五十音表が定まっていないどころか,小1の国語の教科書が乱立している状態( ゚Д゚)

「音韻認識が弱いと読字困難が出やすいこと,また音韻認識を伸ばすことがディスレクシアにとって効果的だという点については,エビデンスは多々あるが,多感覚が効果的という点についてはエビデンスがほとんどない」という仰天発言も,複数個所で聞きました。
でもオートン協会は多感覚は大事だとうたっているのですが・・・しかし多感覚の定義は実はあいまいなようで・・・(二転三転)

さらには,ディスレクシアの割合も,アメリカでも定かではないことも明らかに。
「スペクトラムなので,ここからがディスレクシアだという線引きが難しい」
とのことでしたが,多くとると20%,少なくとると5~6%とのことでした。

ここにて時間切れ。日本に帰ります!

2017-11-11

IDA@アトランタ報告(その2)

2時間後に,最大のお目当ての報告が始まるので,記憶が上書きされる前に書いておきます・・・

「天才たちは学校がきらいだった」の著者,トーマス・G・ウェスト氏のプレゼンは,日本から行ったかいがある素晴らしいものでした(T T)
IDA入りして初めて,それどころか学会と名がつくもので初めて,ディスレクシアの強みについて語られたプレゼンを聞きました。
それには理由があることも,この発表で明らかに・・・

・題名は「オートンが患者MPから学んだこと」。
オートンとは,ディスレクシアを「字盲」と名付けてはじめて世に問うた人。IDAは前身を「オートン協会(Orton Society)」と言い,またこちらではOrton-Gillingham(オートン・ギリンガム)メソッドが,ディスレクシア向け英語教授法としてスタンダードになっているようです。
この発表の根底にあるメッセージは「オートンは最初からすべてを見抜いていた」。

ウェスト氏は,オートンを「僕の第一のヒーロー」と呼び,こんなエピソードを紹介します:
「オートンは1925年,アイオワ州で142人のドロップアウトを集めて調査を行った。
そのなかでMP(16歳)という,まったく字が読めない少年を見て,当時新しかったビネー式検査(現在のIQテストの元になったもの)を行い,こう述べている:
IQ検査はビジュアル化の能力を正当に評価しない
彼の受け答えはすぐに返ってきたし的確だった』」
「つまり,オートンはIQという概念の限界をすでに見抜いていた。これはしょせん,学校で成功するのは誰かをはかるテストに過ぎない。アメリカでは現在,すべての面で成功するのは誰かをはかるテストだと勘違いされているが」

・「映像思考の人は,言葉や書物という古いテクノロジーの世界では分が悪いが,CGが表現するような新しいテクノロジーにはパーフェクトに適応できる。
これからやってくる複雑な世界に適応できる人種。」

・ウエスト氏の第2のヒーローはNorman Gerchwin。オートンに続いてディスレクシアのポジティブ面に迫った人で,早世がたいへん惜しまれまる方だそうです。
この人によると:
「ディスレクシアとは,脳の遂行機能と関係がある。ここは前頭葉のなかでも最も遅く発達するところで,ここが成長すると整理整頓の苦手もなくなる。そしてギフテッドなほど整理整頓の苦手度も激しい。
ディスレクシアの人は,通常の人より脳細胞の死滅が少なく,左脳と右脳が対称的で,長いつながりが多い。これは無関係なことをつなげる能力となる。
多様性,ランダムさをより多くもち,遅咲き[完成形に至るまでより長期間を要する]。
狩人タイプで,人間集団の進化に必要な存在」

・「ディスレクシアの強みは,小さな%,個人的な話,少数者の力,違いや個性の部分に現れる。このため,主流の"科学研究"(数値化し,より大きな数値のものを一般化していく)ではすくい取れない。
ディスレクシアの強みを記述するには,個人のライフヒストリーをじっくりと聞き,そこからデータを集める必要がある。
These talents are invisible to conventional academic measures.
(ディスレクシアの才能は,従来のアカデミズムの手法ではすくい取れない)
オートンは,ディスレクシア研究のはじめから,そのことを指摘していた。」

・「成功した偉大なディスレクシアにおいてうまくいったことを,あらゆるディスレクシアに活用すべき。ディスレクシアを教える教師や親もその部分をサポートすべき。」

・ウェスト氏自身もディスレクシアだそうで,ファミリーヒストリーを紹介していました。先祖はイギリスのコッツウォルズに暮らすクエーカー教徒で,食料雑貨店を経営する,町の便利屋だったそうです。
「ディスレクシアの血は何世代も,何世紀にもわたってさかのぼることが可能だが,これらが文書になって残っていることは珍しい。イギリスでは英国教会に属していなければ名門大学には入れない時代が長く,クエーカー教徒はアカデミックな世界とはほど遠いところにいた」しかし,それぞれの場所でクリエイティブに生きて来たのです。
祖先がかかわっていたという,飛行機,機械いじり,建築,絵画,発明…などのパワポを見せられました。生徒の関心,そしてうちの父の家系と重なる・・・


こじんまりとして静かで,しかもご本人も「エストニアで開かれていた電子政府の学会からとんぼ返りしてきて時差ボケが」と言っているくらいテンション低めの発表でしたが,ディスレクシアの人らしい,時空がゆがむような感覚を覚える発表でした。
終了後,「私がディスレクシアについて読んだ最初の本はあなたの本でした。You are my hero!!」と言いに行きました(笑)
この人の本は本当に読んでほしいです!!訳したい,でも時間が…


◆もっと実務的な発表もいくつか聞きました。
・ディスレクシアには,「雑だが速い」タイプと,「正確だが遅い」タイプがいる。このうち後者のほうが(アメリカの特別支援で要求されている「介入に成功」の基準に達するまでの)困難度が高い,という趣旨の発表は,「用語の定義が間違っている」「解釈がおかしい」と,フロアにぼこぼこにされていました。
でも私はしみじみと同意するところがありました。「読むのが遅いタイプのディスレクシアにとって,試験という時間制限の壁を突破するのは,やはり本当に大変だ」というメッセージを受け取りました。

・アメリカ人も,ブレンディングやセグメンティングを知らないようです!
教室でブレンディングをする動画を流したら,会場中が「へ~」「ほ~」「そうやるんだ~」という雰囲気になっていました。

なお,会場ではブレンディングやセグメンティングが「音韻認識強化の練習」とされ,「音韻と文字を結び付けること」がフォニックスと呼ばれているようです。
そして,フォニックスはシンセティック・フォニックスとほぼ同義のようです。

フォニックスは過去30年間,政治問題になるほど複雑な歴史があったようで,学校では「フォニックス」という言葉は禁止だった時代があったようです(これは本当に黒歴史らしく,あまり語られません)。その後,本気で識字率が落ちた(地方だと,日常生活をぎりぎり送れる程度以上には読み書きできない人が3割いるところもあるそうです( ゚Д゚)。オーストラリアは4割がそうだとの発言も)ので,政府が方針を転換したようです。
実は「ディスレクシア」という言葉も行政用語としてはどうやら微妙なようで,RD(reading disability:読み障害)と言い換えられているようです。

・「ディスレクシアの子には,シンタックスをきちんと教えるべき」と力説する発表では目が点に。構文を学ぶことが役に立つというか必要だという話です。
結論だけ書くと・・・どうやら,日本の受験英語は全然捨てたものではないです。というよりむしろ,日本の文法重視の英語教育は,英語に触れる機会が極端に限定された環境で最大限に効率的に英語を身に着ける方法としては,ものすごくよくできていると再認識しました。伊藤和夫恐るべし。
日本の英語教育に足りないものがあるとしたら,音韻認識とフォニックス,そして中学英語レベルの基本文が反射的に出てくるようにするための訓練だと思います。前からそう思っていたのですが,そのことを確信するに至りました^^

・ディスレクシア介入方法として,音韻認識の練習,フォニックスに続けて行うべきは,接頭辞や接尾辞を覚えること,そして流暢性(fluency)の獲得だそうです。時間をはかっての音読が必要とのことでした。そうでしょう。
これについては,日本の英語教育でよくみられる「長文問題の内容を覚えていれば解ける定期試験」は非常に有害と再認識しました。2行でも3行でも,覚えずに"読む"訓練の徹底が必要です。

・英語教育の本場?にも,確立したディスレクシア介入法は存在しないようです。
ディスレクシアは多彩すぎて,メソッドを確立することができないようです。
いろんな素材を用意しておいて,生徒にあわせて作るくらいのスタンスが必要らしいです。