ディスレクシア専用英語塾「もじこ塾」のブログです。 ●ディスレクシアとは:知能は普通だが、読み書きが苦手(読み間違いが多い、読むのが遅い、書き間違いが多い、読むと疲れやすい)という脳の特性 ●全体像の把握、物事の関係性・ストーリーの把握、空間把握、ifを考えるシミュレーション能力に長ける ●読み書きの困難は、日本語より英語に出やすい ●適切に対処すれば、読みの問題は表面上は克服される ●10人に1人程度いるというのが通説 ●家族性とされるが、ディスレクシアの表れ方は個人差が大きい もじこ塾は、ディスレクシアはこれからの社会に不可欠な才能、でも日々の学習では普通と違うアプローチが必要、という立場です。

2013-12-22

ディスレクシア英語教育の覚え書き


大阪で行われたセミナーに、日帰りで行ってきました。
師と仰ぐお方についにお目にかかることができました!
師から教わり、また考えたことを、覚え書きとして書いておきます。




■ディスレクシアに特化した「特別支援」を
ディスレクシアは特別支援教育の範疇に入るようだが、特別支援教育といっても幅広い。
ディスレクシア教育と、自閉症・ADHD・知的障害への教育をまとめて語るのは限界がある。

もちろん後者も大変だし、学ぶべきことも多い。
でも純粋なディスレクシアの場合、「知的な遅れはなく、問題行動も基本的にはなく、真面目に取り組んでいる、でもとにかく字だけが苦手」なため、教員による対策が後回しになりがち。

読み書き困難への対処に特化した教え方を、細かく具体的に情報共有していく必要がある。




■アセスメントの限界。
ディスレクシアの子の多くは学年が上がるにつれて、日本語の読み戦略(内容を推測するなど)を身につけていることが多く、読解力検査をしてもひっかからないことも多い。
1回の読解力アセスメントでディスレクシアかどうか判断をするのは、限界がある。

それよりも、教師や親が一定期間※、その子の読み書きする様子に接するなかで「この子はちょっとおかしいかも?」と気づく……このほうが確かな指標になる。

特に、児童英語の先生は、ディスレクシアに気づきやすい立場にある(1人の子を学校の教師よりも長く見ることが多いし、英語のほうが日本語よりディスレクシアが表れやすいため)。

※予備校なら、5日間の季節講習で毎日答案を見れば、かなりわかります。




ディスレクシア小学英語教育は「文字と音の対応」を徹底させる
ディスレクシアの子は文字と音の対応(aという字を/a/と読むこと)を覚えるのに、普通の子の何倍も時間がかかる。
普通の子ならあっという間に覚えてしまうアルファベットの発音の仕方が、ディスレクシアだと英語の入口にして最大の難関になる。
ここでつまづき、英語が永遠に読めるようにならず、トラウマを抱えるディスレクシアの子は多い。

ディスレクシアの子には小学校4~5年になったら、そろそろ英語の文字と音の対応を教えていくべき。
中学ではこの部分は一瞬で通過してしまうため、先取りしておかないと、あっという間に落ちこぼれてしまう。

また、小学校に英語が導入された暁には、少なくともディスレクシアの子には文字と音の対応を徹底させていくべきである。

ディスレクシアの子は対人能力は高いため、おそらく英会話には不自由しない。




■具体的にはどうするか?
文字と音の対応を教えるには、やはりフォニックスが一番であろう。
(ジョリーフォニックスはとりあえずうまく行っています。親子でもできます。他のフォニックスも可だろうと思いますが、シンセティック・フォニックスである必要はあると思います。)

塾などにフォニックス指導をお願いする場合は、音と字の対応がつらいのだと伝えるといいかもしれない。

あくまで「音→文字→意味(単語)」の順に進むべき。
フォニックスではない「一般的な」英語教室だと、原則として「単語→意味→音」の順に進むので、ディスレクシアには無理。




■子供の「将来の姿」を想像する
その子が自立した将来の姿を想像し、そこから逆算して今すべきことを考える。
「将来の姿」を想像できると、子供の見え方、ひいては指導の仕方も、根底から変わってくる。

表面化している「できなさ」だけしか見ない場合、ミスマッチ(知的レベルよりも幼稚な内容の教材をあてがうなど)を起こす。
目前に迫った試験対策だけしか考えない場合、ディスレクシアの子は読めるようにならないし、かえって混乱を深めることにもなりかねない(カタカナで単語の読み方を書いたプリントを配るなど)。




■何のために英語を勉強するのか?
「サバイバルのため、コミュニケーションのため」→その通り。でもディスレクシアに関しては、この点について特に対策は必要ない。サバイバル力、コミュニケーション力は非ディスレクシアよりも高いのだから。

「ツールを使えばよい」→これもその通り。読み上げソフト、音声認識、ワープロの使用などはディスレクシアにとっては福音。
でも日本で生きていくのなら、こうしたツールが入試で使えなければ、子供にとっては手放しで喜べるものではない。

日本で暮らしていく以上、英語は入試のために必要という側面がどうしても出てくる。
そこを無視することは、ディスレクシアの子の人生の選択の幅を狭めることになる。

これは漢字も同じ。
漢字が読めないと資格試験も通れない。
ディスレクシア指導においては得意を伸ばすことも非常に大切だが、ディスレクシアの子の人生の選択の幅を保証するためにも、少なくとも親や教師はディスレクシア児が漢字を読めるようになることを最初から投げてはいけない。
いくら漢字が「なんとなく意味がわかる」ものだといっても、それでも漢字を正確に読めるようになる努力を、親や教師が放棄してはならない。




■ディスレクシア用のフォローをまったく受けないまま、大学受験まで来てしまった子は、どうすべきか?
1時間かけて1~2パラグラフしか読めないような子は、フォニックスまで戻ってもいいかもしれない。小学生よりもはるかに短期間で終わるはず。
sight words(フォニックスのルールでは読めない「例外」の読み方をする単語。実は英語の最頻出語の多くがこれ)を教えるのもよいかもしれない。

単語は、ディスレクシアだと暗記は苦手だが物語を覚えることは比較的得意なので、文脈のなかで覚える。音が先→文字が後が鉄則。

構文はきちんと理解できることが多い(理屈が分かれば記憶への定着は良いため)。文字と並行して構文を教えるといいかも?

定規をあてて読む、カラーシートをかけるだけで、意外と効果がある場合も。




■電子辞書の効用
ディスレクシアの場合、電子辞書を早めに導入すべき。
・ディスレクシアだと、アルファベットの順番を覚えるのが大変なので、紙の辞書を引くのに苦労する。
・発音を読み上げてくれる機能が、「音→文字」の順での単語学習に役立つ。
・文字を大きくする機能も、ディスレクシアにやさしい。

(でも、電子辞書だとスペリングをなかなか覚えられないというマイナス点が。
また難関大学受験レベルで和訳が必要な場合、電子辞書だとどうしても日本語表現力が失速する。
どうしたものか。。。)




■ジョリーフォニックス、ひととおり終わったら次は何をすべきか?
tricky words(sight words)に行くと同時に、付属の易しい本を読み始める。ディスレクシアは物語が好きだから。
その場合も、まず音から入る。
本にCDが付属している場合、それを使ったシャドウイングは効果がある。

2 件のコメント:

  1. バーバモジャ2013年12月24日 16:23

    >ディスレクシア用のフォローをまったく受けないまま、大学受験まで来てしまった子は、どうすべきか?

    こういうケースは試験が迫っているため大変だ、どうフォローしたらいいのか?と思う反面、今の社会では、ディスレクシアは小学校時代などに早期発見できても、学校や教育機関の理解や支援はほとんどなく、支援をお願いすれば先生と揉めるばかりで、もじこさんとお子さんのように親子で勉強法も試行錯誤しながら、相談窓口もなく進む大変さがありますよね。
    現状は、早く発見できたメリット、というのが自閉症などよりずっと少ないように思います。

    やはり一刻も早い ディスレクシアに特化した特別支援 が必要ですよね。それも、様々な状態、年齢の子に対して適切な支援が…。

    返信削除
    返信
    1. >様々な状態、年齢の子に対して適切な支援
      ほんとにそう思います。

      「隠れディスレクシア」(一見読み能力は克服できているように見えるタイプ)なら、高校生になって発覚しても、1浪して腰を据えて、読み書きが苦手だということをを意識した勉強をすればおおむね希望の進路に進めるような気がします。
      でも、読めないディスレクシアだと、どうしてあげればいいのか分からないのが私も辛いところです。。他の子がとっくに全部解き終わっているのにまだ1~2パラグラフくらいしか読めていない子たち。今年度の生徒には幸か不幸かそんな生徒はいないのですが、次にそんな子に出会ったらどうすべきなのか、ずっと考えています…。

      削除